当サイトの目的
世界におけるエネルギーセクターは今、2つの重要な課題に直面しています。
第一は、一層の再エネ電力の導入拡大を目指すことです。そのために、企業の温室効果ガス(GHG)排出量算定の国際基準である「GHGプロトコル」は、現在Scope 2ガイダンスの大幅な改定作業を進めています。
第二は、中東情勢に起因して、原油・LNGのサプライチェーンが滞り、電力の安定供給が危機に瀕していることです。このような中で、日本を含めたアジア諸国では、火力発電を含めた、電力システムや電力取引システムの見直しが議論されています。
しかしながら、日本を含めたアジア諸国では、「再エネの一層の導入」と「火力発電を含めた現在のエネルギーミックスを全体とした安価で安定な電力供給の仕組みづくり」が別々に議論され、統合的な議論がなされていません。
今必要とされているのは、各国で異なる現状のエネルギーミックスを出発点として、脱炭素化と、安定で安価な電力の確保を統合的に達成する現実的な道筋を立てることです。
当サイトにおいては、こうしたアプローチにたって情報を発信してまいります。
GHGプロトコル Scope 2ガイダンス改定の全体像:4つの重要カテゴリー
脱炭素社会の実現に向け、企業の温室効果ガス(GHG)排出量算定の国際基準である「GHGプロトコル」は、現在Scope 2ガイダンスの大幅な改定作業を進めています。
2015年の現行ガイダンス発行以降、再エネ技術の普及や電力市場の急速な変化に伴い、算定結果の正確性や企業間の比較可能性、二重計上のリスクといった課題が浮き彫りになりました。
これらに対応するため、2025年10月中旬から改定草案に対するパブリックコンサルテーション(意見募集)が開始されました。今後、2026年にも2回目の意見募集を行い、2027年の最終化を目指して議論が白熱しています。

本記事では、この複雑な改定の全体像を把握するため、主要な論点を「ロケーションベース手法」「マーケットベース手法(MBM)」「AMI(Actions and Market Instruments)」「経過措置」の4つの柱(カテゴリー)に分けて解説します。
1. ロケーションベース手法(LBM) 系統平均の係数を用いるロケーションベース手法では、より精緻な排出係数の使用が義務化される方向です。新たに「地理的境界」「時間的粒度」「排出係数の種類(輸出入を加味した消費ベースを優先)」という3つの軸からなるヒエラルキー(階層)が設けられ、企業は無料で公開されている信頼できるデータの中で、最も精度の高い係数を選択することが求められます。
2. マーケットベース手法(MBM) 企業の自発的な再エネ調達などを反映するMBMでは、品質基準が大幅に厳格化されます。具体的には以下の小分類で議論が進んでいます。
- 同時同量(アワリーマッチング):電力消費と契約証書の発行・償還を1時間単位で一致させる要件です。
- 供給可能性(Deliverability):電力消費地と同一の市場境界内からの調達であるか、あるいは物理的に送電が可能であることを実証する要件です。
- レガシー条項:改定前から存在する既存の長期契約については、新要件を満たさなくても旧ルールでの報告継続を容認する緩和措置です。
- 標準供給サービス(SSS):公的支援を受けた非化石電源などを定義し、企業は自社の比例配分(平均的なシェア)までしか環境属性を主張できなくする新規制です。
- 残余ミックス:残余ミックスが利用できない国や地域では、従来の系統平均ではなく、より保守的な「化石燃料ベースの排出係数」を適用することになります。
3. AMI(Actions and Market Instruments) 従来のインベントリ(帰属計算)とは別に、企業の行動や再エネ調達が電力システム全体の排出削減にどれだけ貢献したか(結果的影響・インパクト)を評価する新たな枠組みです。当初はScope 2の枠内で限界インパクト手法(MIM)などが検討されましたが、現在はAMIワーキンググループに議論が移管され、より広範な影響評価の仕組みとして検討が続いています。
4. 経過措置 今回の改定は企業実務への影響が極めて大きいため、実現可能性(フィージビリティ)への配慮が不可欠です。2027年の基準最終化後、複数年にわたって新要件を段階的に適用するフェーズイン(段階的導入)が検討されています。また、電力消費量が少ない事業者に対する1時間同時同量の免除措置なども、各項目を横断する重要な経過措置として議論されています。
当サイトでは、これら4つのカテゴリーごとに論点を深掘りし、実務への影響や対策を詳しく解説していきます。