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電力システム改革は「大谷翔平」に学べるか?【日曜日に考える】

数値

“役割分担型市場”から“全員野球型システム”への転換

日本の電力システムは、いま大きな転換点に立っています。

求められているのは、

「供給信頼度」

「経済性」

「再生可能エネルギーの大量導入」

という3つを同時に達成させることです。

特に近年は、太陽光発電や風力発電といった、出力変動の大きい再生可能エネルギーが急速に拡大しています。

従来の火力発電中心の時代であれば、「必要な時に必要な量を発電する」という比較的シンプルな制御で成立していました。しかし、再エネ比率が高まると、天候によって発電量が大きく変動します。すると、電力システム全体には、これまで以上に柔軟性や瞬発力が求められるようになります。

その中で、日本の電力システム改革では、欧米に倣って、大きく3つの市場を形成することで、この難題を乗り越えようとしてきました。

1. 頼りになるゴールキーパー。kW価値を守る容量市場

1つ目は、容量市場です。

これは「kW価値」と呼ばれるもので、“いつでも発電できる能力”に対して価値を与える市場です。

火力発電、水力発電、原子力発電など、安定的に電力を供給できる電源には、「供給信頼度」という価値があります。仮に電気が使われなくても、「必要な時に動ける」という能力自体が社会インフラとして重要であるため、その存在価値に対してプレミアムを支払う仕組みです。

2. 瞬発力でピンチを救うスイーパー。ΔkW価値を発揮する調整力市場

2つ目が、調整力市場です。

これは「ΔkW価値」と呼ばれます。

電力は、需要と供給が一瞬でもズレると周波数が乱れ、大規模停電につながる可能性があります。そのため、突然需要が増えたり、再エネ出力が急変した際に、すぐに発電量を増減できる“瞬発力”が重要になります。

蓄電池や高速応答できる火力発電などは、この「瞬間的に動ける能力」に価値があるため、その調整能力に対して報酬が支払われます。

3. できる時に、できるだけ発電して、kWh価値で貢献する電力量市場

そして3つ目が、通常の卸電力市場です。

これは「kWh価値」、つまり実際に発電された電力量そのものを売買する市場です。

良く出来た市場設計だけれども、、、

この3市場構造は、それぞれ異なる価値を評価するという意味では、非常に合理的な制度設計です。

しかし一方で、ここには本質的な難しさもあります。

それは、「役割分担を固定化することによるモラルハザード」です。

本来、どんな発電所も、多かれ少なかれ、

「kW価値」「ΔkW価値」「kWh価値」

の3つを持っています。太陽光発電だって、パネルの角度を変えて夕方でも日照を拾いにいく努力もするし、ベース電源といわれる石炭火力だっていざとなれば発電量を調整できます。

逆に需要側だって、いざとなったら稼働をとめたり、急に需給がひっ迫したら即応することも技術的には可能です。

ところが、制度上「あなたは容量担当」「あなたは調整力担当」と役割を固定化すると、その役割以外へのインセンティブが弱くなります。

容量市場で収益を得られる電源は、「安定供給だけやっていればいい」という方向に向かうかもしれません。「容量市場で十分お金を稼いでもらって、それ以外で儲けた分はほぼ没収します」といわれると、なかなかやる気が出てこないというのが発電者の心情でしょう。

逆に、調整力市場に参加できない電源や需要は、「需給変動への貢献は自分の役割ではない」という発想になりかねません。あるいは、入札で約定できなかった電源は、調整力のポテンシャルはあっても、発揮する可能性が高くないかもしれません。

需要側にしても、例えば、冬場に電気が足りなくなった時に、節電をするDRに参加してこれを束ねると市場でお金がもらえるのですが、一般の家庭もそこまでしなくてもそれなりに努力はしてくれることも期待できます。

でも、DRの仕組みがわかると「あの人は節電をしてお金をもらったのに、私はもらえないのか」ということでやる気をなくしてしまうかもしれません。

しかし、本来の電力システムとは、もっと連続的で、もっと総合力が問われる世界のはずです。

ましては、電力は究極のインフラ事業ですから、お金にならなくてもピンチの時にはみんなで助け合ってシステムを守るというスピリッツを守っていかなければいけません。

サッカーは“役割固定”では勝てない

これは、サッカーに例えると非常に分かりやすいと思います。

仮にサッカーで、

「ゴールキーパーはゴールだけ守っていればいい。それ以外のプレーは評価しない」

という制度になったら、どうなるでしょうか。

おそらく、ゴールキーパーは前に出なくなります。

得点で大きく負けていても、センターライン近くまで上がって攻撃参加するようなことはしなくなるでしょう。なぜなら、それは評価対象外だからです。

逆に、ミッドフィルダー(スイーパー)に対して、

「ピンチの時だけ上下動して守備をしてください。それ以外の活動は評価しません」

というルールになれば、攻撃参加や全体の連携は弱くなるでしょう。

そして、その他の9人には、「ゴール前の守備や、急な攻守の変化への貢献は必ずしも評価しない」というルールになれば、前線からのプレスはなくなり、チーム全体の守備強度は一気に落ちます。

しかし、実際のサッカーはそうではありません。現代サッカーでは、全員が攻守に参加します。

フォワードも守備をする。

ミッドフィルダーは攻守両面を駆け回る。

ディフェンダーも攻撃参加する。

ゴールキーパーですら、いざとなればビルドアップに加わる。

つまり、全員が、

「守る力」「瞬発的に動く力」「攻める力」

を、それぞれの形で持っているのです。

そして、その3つの力を、状況に応じて全員が発揮することで、チーム全体の最適化が実現されます。

もし役割を固定化しすぎれば、チームプレーそのものが失われます。

「それは自分の仕事ではない」

という発想が広がるからです。

電力システムも、実は非常によく似ています。

本来、火力発電も、再エネも、蓄電池も、EVも、需要家も、すべてが「安定供給」「瞬発力」「電力量供給」の3つに、程度の差こそあれ貢献できる存在です。

しかし市場を分断しすぎると、その総合力を引き出せなくなる可能性があります。

大谷翔平選手が示した「二刀流」という思想

今度は野球に例えてみましょう。

この“総合力”を象徴する存在が、 大谷選手なのではないでしょうか。

大谷選手は、かつて「投手か打者、どちらかに絞るべきだ」と言われ続けてきました。

野球というスポーツは、長い間、「役割分担」を前提に進化してきたからです。

ピッチャーは投げる。

バッターは打つ。

それぞれ専門特化する。

それが常識でした。

しかし、大谷選手は、その常識を変えました。

投手として160km/h級の球を投げ、三振を奪う。

一方で打者としてホームランを量産する。

さらに盗塁まで決める。

つまり、

「守る」

「攻める」

「瞬発的に動く」

という複数の価値を、一人で統合しているのです。

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しかも、それは単なる“器用さ”ではありません。

大谷選手は、「自分は両方やる」という信念を持ち続けました。周囲から「どちらかに専念した方がいい」と言われても、その信念を曲げなかった。

我々が大谷選手に魅了される理由は、単にホームラン数や勝利数だけではないと思います。もちろん、数字も圧倒的ではありますが、人々は、「既存の役割分担に縛られず、自分の持てる力を全部発揮しようとする姿勢」、いってみれば「チームの勝利にどうしたら貢献できるかを常に考える無私の生き方」に世界中のフアンが心を奪われているのではないでしょうか。

そして、これは電力システムにも通じる話です。

発電所、蓄電池、EV、需要家、データセンター――。

本来、それぞれが複数の価値を発揮できる存在です。

しかし、「あなたはkWh担当」「あなたはΔkW担当」「あなたはkW担当」と固定化しすぎれば、その潜在能力を引き出せなくなる可能性があります。

むしろ重要なのは、一人ひとり、一設備一設備が、自らの総合力を最大限発揮することです。

そして、それらが連携しながら、システム全体として最適化される。

それはまさに、“全員野球”の発想です。

欧州で進み始める「ミクロ最適」の思想

実際、欧州では近年、この方向性を意識した制度設計が少しずつ広がり始めています。

従来の欧州でも、日本と同様に、容量市場や調整力市場など、役割ごとに市場を分ける設計が中心でした。

しかし近年は、再エネ、蓄電池、需要家、EVなどを組み合わせ、PPA(電力購入契約)を通じて、個別・ミクロ単位で最適化しようという動きが強まっています。

例えば、単に「kWhを供給する契約」ではなく、

「どの時間帯に供給するか」

「需給逼迫時にどれだけ柔軟に動けるか」

「供給信頼度へどう貢献するか」

まで含めて、発電事業者と需要家が直接契約するケースが増えています。

背景にあるのは、デジタル化です。

かつては、こうした細かな制御や契約は不可能でした。

しかし現在は、スマートメーター、AI、IoT、蓄電池制御、リアルタイムデータ分析などが急速に進化しています。

つまり、中央が大まかに役割分担を決める“どんぶり勘定型”から、個々の主体が自律的に最適化し、その積み重ねが全体最適につながる“分散協調型”へと、少しずつ思想が変わり始めているのです。

もちろん、容量市場や調整力市場そのものを否定する必要はありません。

安定供給を支える重要な制度であることは間違いありません。ただし、制度が複雑化したり、そのルールの変更が重なると、応札者は、「将来どうなるか分からない」という不透明さを価格へ織り込まざるを得ません。

結果として、リスクプレミアムが上昇し、それが託送料金やインバランス料金を通じて、最終的には電気料金へ跳ね返っていきます。再エネ賦課金が社会問題化していますが、再エネ賦課金に表れない隠れた再エネコストとして指弾される可能性すらあります。

つまり、制度の複雑化や繰り返しの更新は、それが合理的な行動であっても、結果として社会全体のコスト増につながる可能性があるといえるかもしれません。

だからこそ、日本の電力システム改革も、単なる“役割分担型市場”だけではなく、“総合力を引き出す市場設計”へ少しずつ発想を転換していく必要があるのではないでしょうか。

一人ひとりが複数の力を持つ。

そして、それぞれが連携しながら、全体として柔軟性を高めていく。

それは、サッカーであり、野球であり、そして大谷翔平選手が世界へ示した「二刀流」の思想にも重なります。

日本の電力システム改革もまた、“役割固定の時代”から、“総合力の時代”へ向かっているのかもしれません。

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