第114回 総合資源エネルギー調査会 電力・ガス事業分科会 次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会 制度検討作業部会が、 2026年5月8日、書面審議により開催され、容量市場を中心とした第二十五次中間とりまとめが上程されました。
本記事では、その論点を詳説します。

はじめに
東日本大震災を契機として、我が国では電力システム改革が推進されてきました。その主な目的は、電気の安定供給の確保、電気料金の最大限の抑制、そして事業者の事業機会および需要家の選択肢の拡大の三点にあります。
この改革の一環として、更なる競争の活性化を進めるとともに、環境適合、再生可能エネルギーの導入拡大、安定供給等の公益的課題に対応するための方策が議論され、電力システム改革貫徹のための政策小委員会において5つの市場の創設が提言されました。
具体的には、ベースロード市場、間接オークションおよび間接送電権市場、容量市場、需給調整市場、そして非化石価値取引市場です。これらの詳細な制度設計については、次世代電力・ガス事業基盤構築小委員会の下に設置された制度検討作業部会において検討が進められ、現在では各市場における取引が開始されています。
これまで同作業部会では、各市場の運用開始に向けて制度設計を進めるとともに、実際の運用を通じて顕在化した課題や電気事業を巡る環境変化を的確に踏まえ、適時に制度の見直しを行ってきました。
討議内容については定期的に取りまとめられ、パブリックコメント手続を経て公表されており、今回の取りまとめは第二十五次中間とりまとめに該当します。
特に容量市場に関しては、2024年度の実需給を対象としたメインオークションが2020年度に初めて開催されて以来、毎年度メインオークションが開催され、着実に実績が積み重ねられてきました。
2025年度においては、第6回目となる2029年度実需給を対象としたメインオークション、および2026年度実需給を対象とした追加オークションが開催されました。
容量市場で確保された供給力に基づく実需給の運用は2年目を迎えており、小売電気事業者等に対する容量拠出金の請求や、発電事業者等に対する容量確保契約金額の支払いといった資金決済の運用が進められています。
また、容量提供事業者に求められるリクワイアメントを満たしているかどうかを評価するアセスメントなどの実務対応も本格化しています。
エネルギーを取り巻く情勢が国際的にも国内的にも大きく揺れ動く中、我が国の国民生活や経済活動の基盤となる電気の安定供給をいかにして実現していくか、改めてその公益的課題に正面から向き合うことが強く求められています。
制度検討作業部会は、国内の社会動向や経済動向、国際情勢の変化に機敏に対応し、これまでの整理を取りまとめると同時に、各市場制度について不断の見直しを行い、新たな制度の検討にも取り組んでいく方針を明示しています。
市場整備の方向性に関する背景
容量市場は、将来必要となる供給力を予め確実に確保することや、卸電力市場価格の安定化を実現することで、電気事業者の安定した事業運営を可能とするとともに、電気料金の安定化を通じて需要家にもメリットをもたらすことを目的として創設された制度です。
直近の動向として、2025年度には全国を対象とした供給力の調達を行う追加オークションが実施され、7月に約定結果が公表されました。
さらに、2026年1月には第6回となるメインオークションの約定結果が公表されましたが、この第6回メインオークションにおける約定総額は約2兆2094億円に達し、過去5回のオークションと比較して最も高額な結果となりました。この背景には、容量市場の応札対象となっている電源において、昨今のインフレや燃料価格の変動、設備の経年劣化などに伴い、維持・管理費用がこれまでよりも割高になってきている状況が想定されています。
また、2025年度は容量市場が開設されてから5年に相当する節目の年となります。2025年4月時点で既に5回のメインオークションが行われ、容量の受渡も実際に行われた段階に達しているため、2018年7月に策定された第一次中間とりまとめの基本方針に基づき、電力広域的運営推進機関を主な実施主体として、制度全体の包括的検証が開始されました。
この包括的検証を進める中で、抜本的な見直しが必要となる場合や、事業者の利害関係に深く及ぶ見直しの議論が必要となる場合には、制度検討作業部会において慎重に議論を行うこととされています。第101回の同作業部会において提示された容量市場における今後の論点のうち、特に重要となる三つのテーマ、すなわち容量市場における供給力確保の考え方、非効率石炭火力における稼働抑制誘導措置の在り方、そして指標価格であるNet CONEの見直しについては、作業部会で議論を深めつつ、広域的運営推進機関においてさらなる詳細な検討を実施していくという方向性が確認されました。
広域予備率の考え方見直しに伴うペナルティレートの扱い
容量市場においては、安定電源の市場応札および供給指示のリクワイアメントに対するペナルティ制度が設けられています。
このペナルティの強度は、2019年8月に開催された第42回調整力及び需給バランス評価等に関する委員会において整理されました。実需給年度の全契約容量を対象に、市場応札リクワイアメントが課される時間帯ごとに全量未達であった場合、容量提供事業者が受け取る容量確保契約金額が同額減少し、一定の合計時間すなわちペナルティレートに到達した時点で、容量確保契約金額がゼロになるという厳しい考え方に基づいています。
具体的な経済的ペナルティは、月間上限額が容量収入額の6分の1程度、年間上限額が110パーセントに設定されています。

制度創設時、このペナルティレートであるZ時間は、過去の予備率実績を参考に30時間と設定されました。需給ひっ迫のおそれの判定基準である予備率8パーセントに加え、バランス停止機を起動させることで見込まれる1パーセントの予備率改善を考慮し、予備率9パーセント以下であったコマ数が参考にされたためです。
しかし、2024年度以降、広域予備率の見通しに応じて広域予備率低下に伴う供給力提供準備通知や供給力提供通知が発出される運用が始まりました。実需給の前日18時頃以降に広域予備率が8パーセントを下回るコマは低予備率アセスメント対象コマと呼ばれます。2024年度の翌日計画における広域予備率は前年度よりも低い傾向が継続したため、この低予備率アセスメント対象が比較的高頻度に発生するという事態が生じました。
これを受け、容量市場の在り方等に関する検討会において、Z時間の値が実態と大きく乖離していることが指摘され、見直しが行われました。検討の結果、4つのステップを経て新たなZ時間が導き出されました。第一に、2024年4月から12月における供給力提供通知が発出されたコマ数を、揚水追加起動を加味して推定したところ194コマとなりました。第二に、1月から3月までの実績値18コマを加え、年間の発生コマ数を212コマ、すなわち106時間と推定しました。第三に、2024年度は過去3年と比較して高需要傾向が続く特異な状況であったため、その影響を排除する補正を行いました。第四に、平年相当の供給力提供通知発生コマ算定値が92時間となったことを踏まえ、新たな供給力提供通知想定時間Zを90時間と設定することに決定しました。
この新たなペナルティレートの適用時期についても慎重な検討が行われました。次回メインオークションである実需給2029年度から適用する案、今後の実需給開始年度である実需給2025年度から適用する案、そしてアセスメント実施済分も含めて2024年度4月分から遡及して適用する案の3つが比較されました。Z時間はオークション時の前提条件として契約されているため、現条件を前提に努力した事業者を考慮する必要がある一方で、設定当時の想定と実態が大きく乖離している状況を放置すれば、ペナルティリスクの増大による市場退出を誘発し、供給力確保に懸念が生じます。結論として、次回のオークションからではなく既契約分にも適用し、今後実需給が始まる2025年度からZ時間を90時間へと変更し適用することと整理されました。
さらに、2024年度実需給のペナルティの扱いについても例外的な対応が取られました。2024年度は容量市場の最初の実需給年度であり、低予備率アセスメント対象が高頻度に発生しました。その後、10月に揚水の余力活用の考え方が見直され、1月より運用が開始された結果、本来の状態に落ち着いたと捉えられました。
この見直しを事後的に反映して推定すると、12月までの提供通知コマは約半数であったと考えられます。現行契約の遵守に努めた事業者がいることは事実ですが、ペナルティ額の大幅な増加につながった特異な状況を考慮し、2024年4月から9月の提供通知は本来半数であったと想定して、当該期間のペナルティ額を半分に減免する決定が下されました。なお、10月以降については供給力提供通知の発生状況に鑑み、現行契約通りとされています。
この措置は各社の決算時期を考慮し、4月早々に約定事業者へ通知される予定であり、2024年度特有の状況を踏まえた今回に限った例外的な扱いであることが確認されています。
2025年度包括的検証について
容量市場は開設から5年が経過し、十分な回数のメインオークションが実施され、実際の容量の受け渡しや資金決済の運用が開始された段階に到達しました。制度創設当初である2018年7月の第一次中間とりまとめにおいて、容量市場が効果的に機能しているかどうかを定期的に検証し、必要に応じて既存の制度にとらわれずに見直しを実施する枠組みを設ける方針が示されていました。
また、諸外国の事例として、アメリカのPJMでは4年ごとに需要曲線の設定を見直し、イギリスでは5年以内ごとにレビューを実施しているという背景も考慮されています。これらを踏まえ、電力広域的運営推進機関を主な実施主体として、制度全体の包括的検証が行われることとなりました。
包括的検証の主な目的は、容量市場の制度趣旨を再確認し、それを果たすための現在の仕組みを点検し、必要に応じた機能性の向上や運営の更なる効率化を図ることにあります。実施期間については、2025年度中を主な期間として設定し、中長期的な論点については期間に限定せずに継続して検討を行うことと整理されました。
具体的な年間スケジュールとしては、4月に全体的な進め方の設計を行い、5月から9月にかけて関連データや海外事例の情報提供、10月から11月にかけて意見募集の実施、そして12月から翌年3月にかけて意見募集の結果を踏まえた情報の整理と検証のとりまとめを行うという流れが想定されています。
検証の実施にあたっては、電力広域的運営推進機関と資源エネルギー庁が緊密に連携し、容量市場の在り方等に関する検討会を主な報告の場としつつ、抜本的な見直しや事業者の利害関係に深く及ぶ議論が必要な場合には、制度検討作業部会において慎重に審議を行う体制が構築されました。
この包括的検証によって得られた新たな整理や見直し事項を実際の制度へ反映するタイミングは、2026年度に開催予定の2030年度実需給向けメインオークション以降を基本と想定しています。ただし、事前に想定される論点のうち、より短期的かつ緊急に措置を行うことが求められる内容については、必要な対応が遅れることのないように柔軟に前倒しで取り扱う方針が明記されています。
検証のスコープは、主に応札への参加から約定結果、そして2024年度までのオークション実績や業務運用全体を振り返るものとされています。対象とする市場はメインオークションおよび追加オークションを中心とし、長期脱炭素電源オークションや予備電源、需給調整市場などは直接的な検証対象とはしませんが、容量市場の検証に必要な範囲において、他市場との相互関係性を十分に考慮に入れた分析を行うこととされています。この包括的な検証プロセスを通じて、需要急増への対応、調整力の確実な確保、非効率石炭火力の稼働抑制誘導措置の評価、指標価格の妥当性など、多岐にわたる論点の抽出と改善策の策定が進められることになります。
2025年度追加オークションおよびメインオークションにおけるNet CONEの見直し是非について
容量市場における需要曲線の作成にあたっては、新規の電源建設にかかる総コストであるGross CONEから、容量市場以外から得られると見込まれる収益を差し引いた純コストであるNet CONEを算出し、これを指標価格として用いる仕組みとなっています。
しかし、昨今の急激な物価上昇や世界的なインフレの進行、為替の変動などを背景に、発電コスト検証ワーキンググループにおいてこのNet CONE算定の基礎となるモデルプラントのコスト試算結果が大幅に見直されました。特にLNG火力の建設費については、従来の試算と比較して約2.2倍という極めて大きな上昇が確認されました。
過去の制度設計における整理では、Gross CONE等に大きな変動が生じた場合には、包括的な検証等を踏まえた上で、必要に応じて需要曲線の見直し等の検討を進めていくこととされていました。
そのため、これまでの毎年度のメインオークションおよび追加オークションにおいては、基礎となる諸元は変更せず、算定時点における最新のインフレ率などの経済指標のみを反映する運用が行われてきました。実際、2021年のコスト検証時にも、諸元の抜本的な変更を行わない旨が制度検討作業部会で整理された経緯があります。
今回の最新の発電コスト検証ワーキンググループの数値をそのまま機械的に適用した場合、Net CONEは従来の1.0万円/kWから2.3万円/kWへと大きく跳ね上がることが確認されました。
このように指標価格が急激に2倍以上に変動することは、市場の価格形成に甚大な影響を及ぼします。発電事業者にとっては将来の投資回収計画が大きく変わる一方、小売電気事業者にとっては負担する容量拠出金が急増することになり、ひいては需要家である国民の電気料金に多大な影響を与えるリスクを孕んでいます。
したがって、市場関係者双方の事業の予見性を確保し、無用な市場の混乱を避けるという極めて重要な観点から、このNet CONEの抜本的な設定見直しについては、単にコスト検証結果をそのまま反映するのではなく、容量市場全体の包括的な検証を踏まえた上で慎重に行うべきであるとの結論に至りました。
その結果、2025年4月時点で開催される2025年度追加オークションおよびメインオークションにおいては、Net CONE算定の基礎となる諸元の変更は行わず、従来通りの諸元を維持したままオークションを実施することと決定されました。
連系線運用容量の30分細分化の適用および負荷制限の織り込み
容量市場における目標調達量や必要供給力の算定は、全国の電力系統の供給信頼度評価に基づいて精緻に行われます。この供給信頼度評価をより実態に即したものとし、評価の精度を向上させるため、地域間を結ぶ連系線の運用容量の扱いについて大きな見直しが行われました。
具体的には、これまで供給信頼度評価においては、月別や昼夜間帯別といった一定の幅を持たせた「年間運用容量」を採用してきましたが、2025年1月の調整力等委員会における検討を経て、これをより細かい「30分コマごと」に細分化した運用容量へと拡大適用することが決定されました。
この連系線運用容量の30分細分化は、2026年度実需給を対象とする追加オークションから適用が開始されます。メインオークションの時点からこの30分細分化された運用容量を適用した場合、その後の系統状況の変化によって追加オークション時点で最新の運用容量が下方修正された際に、全国的な必要供給力が不足するリスクが高まるという懸念がありました。しかし、仮にそのような状況が発生した場合には追加オークションの枠組みの中で調達量を調整して対応できること、また、実需給の3年前に実施される容量停止計画調整における供給信頼度評価との連続性を保つ必要があるという観点から、前倒しでの適用が合理的であると整理されました。
さらに、連系線の運用容量に関しては、物理的な送電線の増強というハード面の対策だけでなく、技術的な工夫によるソフト面での容量拡大策である「負荷制限の織り込み」の適用についても整理が行われました。系統制御(負荷制限)を用いた運用容量の拡大は、万が一の際に需要家への供給を一部制限する社会的影響を伴う対策であるため、基本的には設備投資による系統増強が望ましい姿とされています。
しかし、系統増強には巨額の費用と長い工期を要するため、増強が完了するまでの期間限定の措置、あるいは地形的・環境的な制約で増強が著しく困難な箇所に対する補完的な方策として、負荷制限を活用する方針が確認されました。
近年、特定のエリア間で電力取引の約定価格が乖離する市場分断が高頻度で発生するなど、状況変化が著しい地域間連系線に対して優先的にこの仕組みが検討されました。その結果、技術的に可能な範囲として、中部から関西へ向かう「中部関西間連系線」においては平日の夜間帯を中心に約20万kWから50万kWの拡大を既に適用し、中国から九州へ向かう「中国九州間連系線」においては点灯帯を中心に約10万kWから60万kWの拡大を2026年度頃を目指して織り込む方針が決定されました。これらの負荷制限を織り込んだ運用容量は、各関連機関で公表され次第、供給信頼度評価においても全ての年度にわたって適用されることになります。
洋上風力ゼロプレミアム案件におけるバランシングコスト相当分のFIP交付金の扱い
日本の2050年カーボンニュートラル実現に向けて、洋上風力発電は再生可能エネルギーの主力電源化を牽引する極めて重要な役割を担っています。しかし、洋上風力事業は巨額の初期投資を伴うだけでなく、海域という厳しい自然環境下での建設や、長大なサプライチェーンの構築が必要であり、事業リスクが非常に高いという特徴があります。
そのため、大規模な電源投資を確実に完遂させるためには、将来の収入や費用の変動に対する強靭な事業組成を促進し、事業実施の確実性を制度的に高めていくことが強く求められていました。
容量市場は、原則としてあらゆる電源が参加可能ですが、固定価格買取制度(FIT)やフィードインプレミアム(FIP)制度の適用を受ける再生可能エネルギー電源については、厳しい制限が設けられていました。具体的には、国民負担によって固定費の回収を支援するFIT・FIP制度からの収入と、容量市場からの容量確保契約金額という固定費の二重回収を防止するという大原則の観点から、FITやFIPの支援適用期間中は容量市場への参加が認められていませんでした。
しかし、近年実施されている海洋再エネ整備法に基づく公募においては、事業者の競争激化により、電力の売電収入のみで事業が成立すると見込む「ゼロプレミアム水準」での落札が相次いでいます。このゼロプレミアム案件においては、市場に電力を統合するための予測誤差対応等の費用であるバランシングコスト相当分を除いては、国からのFIP交付金は実質的に想定されていません。
したがって、これらゼロプレミアム案件が容量市場に参加して容量収入を得たとしても、実質的な固定費の二重回収という問題は発生しないという制度上の整理が行われました。
この背景を踏まえ、ゼロプレミアム案件に限定する形で、FIP制度の適用期間中であっても容量市場への参加を特例的に認めることとしました。ただし、参加にあたっては公平性を担保するための厳格な条件が課されます。具体的には、容量市場のオークションにおいて落札できた場合のみFIP交付金を辞退し、不落札の場合にはFIP交付金を受け取るといった、結果を見た上での事業者による都合の良い選択(チェリーピッキング)を防ぐ必要があります。
そのため、容量市場への約定結果に関わらず、初めて容量市場へ応札するオークションの参加登録時点(運転開始後に初めて応札する場合は運転開始時)において、FIP制度の全支援期間にわたりバランシングコスト相当分のFIP交付金の受領を完全に放棄することを確定させるという厳格な応札条件が設定されました。
2025年度メインオークションにおける「GX-ETS」の取扱い
政府が推進するグリーントランスフォーメーション(GX)の実現に向け、2026年度からGXリーグにおける排出量取引制度の第2フェーズが本格的に開始される予定です。この制度の本格導入に向けては、現在、各産業部門や発電所等に割り当てられる排出量のベンチマーク水準など、詳細な制度設計が急ピッチで進められています。
この制度が稼働すると、発電事業者は割り当てられた排出枠を超過した場合には市場から排出権を購入する費用が発生し、逆に排出量を削減して枠が余った場合にはそれを売却して利益を得ることができるようになります。
このような排出権取引に関連する費用や控除項目である「GX-ETSコスト等」は、発電事業者の収益構造に直接的な影響を与えます。容量市場の制度ルールにおいて、事業者がオークションに応札する際の価格は、自らの電源を維持・管理するために必要なコストから、卸電力市場や需給調整市場といった他市場から得られると見込まれる収益を差し引いた金額(維持管理コスト)で入札することが求められています。したがって、GX-ETSコスト等は、この「他市場収益」の算定に多大な影響を及ぼす要素となります。
容量市場のガイドラインでは、このような他市場収益等の算定について、不確実な未来の収益を完璧に予測することは不可能であるため、「合理的に見積もり可能な範囲で算定することが適当である」と規定されています。しかしながら、2025年度に実施される2029年度実需給向けメインオークションの入札準備のタイミングにおいては、GX-ETSの第2フェーズの肝となるベンチマーク水準などの詳細なルールが未定の状態にありました。前提条件が定まっていない段階で、事業者が数年先のGX-ETS関連のコストや収益を客観的かつ合理的に見積もることは極めて困難であると判断されました。
このため、2025年度のメインオークションにおいては、GX-ETSコスト等を応札価格の前提として織り込むことは実務上困難であるとの公式な整理が行われました。ただし、これはあくまで将来の不確実性を理由とするものであり、GX-ETSコスト等を含まない従来の計算方法で算定された価格を下回る金額で事業者が自らの経営判断として応札すること自体を禁止・妨げるものではありません。また、来年度以降、すなわち2026年度に実施される容量市場オークションに向けては、排出量取引制度の本格導入に向けた制度設計の確定状況をしっかりと見極め、必要に応じて制度検討作業部会において新たなルール化の検討を実施していくという方向性が確認されています。
2026年度実需給向け追加オークション
容量市場では、実需給年度の4年前に実施されるメインオークションで大枠の供給力を確保した後、実需給の1年前に実施される追加オークションで需要の変動や電源の休廃止などの最新の状況を反映し、最終的な需給バランスの調整を行います。2025年度には、2026年度の実需給に向けた追加オークションの開催判断と実際のオークションが実施されました。
開催判断の段階において、最新の供給力を算定した結果、メインオークション時点から大きな変動が生じていることが確認されました。プラスの要因としては、太陽光や風力などのFIT電源の導入が進んだことによる期待容量の増加分が104万kW、自家発などの容量市場外で見込まれる供給力が177万kW、そして石炭とバイオマスの混焼を行うFIT電源の供給力増加が35万kW見込まれました。しかしマイナスの要因として、老朽化や経済性の悪化等による安定電源や発動指令電源の市場からの退出がマイナス533万kWにも達しました。これらの増減を差し引きした結果、確保されている供給力は1億8,163万kWとなり、メインオークション時点と比較して217万kWもの大幅な減少となっていました。
一方で、全国における目標調達量(需要側)は増加傾向にありました。近年の全国的な高需要の継続、より厳しい気象条件を想定した厳気象対応分の積み増し、そしてトラブル等に備える追加設備量の見直しなどの影響が重なり、2022年度のメインオークション時点で設定された1億7,829万kWから、今回の追加オークション時点では1億8,679万kWへと、全体で4.8%(849.5万kW)も目標が引き上げられました。この需要曲線における目標調達量(1億8,679万kW)に対して、確保されている供給力(1億8,163万kW)を比較すると、全国で516万kWの供給力が不足する状態であることが明確になったため、不足分を補うための追加オークションの開催が正式に決定されました。
この追加オークションは2025年6月に応札の受付が行われ、その結果、全国で約830万kWの供給力が新たに約定しました。これにより、追加オークション後の最終的な確保供給力は1億8,892万kWとなり、全国トータルで見れば目標調達量を無事に達成することができました。しかし、エリアごとの詳細な供給信頼度評価に基づき約定処理上の市場分断の判断を行った結果、北海道、東北、東京、九州という多くのエリアで供給信頼度が不足する事態となり、さらに今回は中部エリアにおいても初めて不足の判定となるなど、全国的に需給の余裕がない状況が浮き彫りとなりました。
約定価格の傾向としては、激しい物価高騰を反映する結果となりました。経過措置等を考慮した後の総平均単価は約7,017円/kWとなり、対象年度のメインオークション時(約5,226円/kW)と比較して、1kWあたり約1,791円もの大幅な価格上昇が見られました。この価格高騰の背景には、昨今のインフレや燃料価格の変動、設備の経年劣化などに伴い、電源を維持・管理するために必要となる費用全体がこれまでよりも明らかに割高になってきている厳しい事業環境の現実が反映されていると推測されています。
2029年度実需給向けメインオークション
2025年度には、2029年度の実需給を対象とする第6回メインオークションが実施されました。オークションの基盤となる需要曲線の策定にあたっては、電力広域的運営推進機関が最新の需要予測や経済指標を用いて精緻な算定を行いました。その結果、全国の最大需要(H3需要)の増加や偶発的な需給変動への対応分などを積み上げた目標調達量は、1億8,997万kWに設定されました。これは前年度(対象実需給2028年度)のメインオークションにおける目標調達量と比較して、381万kWの増加となっています。
価格の指標となるNet CONE(新規電源の投資回収指標価格)については、近年の建設費の高騰やインフレ率(評価期間の期待インフレ率0.81%等)を反映した結果、10,075円/kWと1万円の大台を突破しました。これに伴い、オークションの上限価格(Net CONEの1.5倍)も15,112.5円/kWと非常に高い水準に設定され、市場の価格上限が大きく引き上げられる形となりました。
実際のオークションは2024年10月に開催され、その約定結果は市場関係者に大きな衝撃を与えるものとなりました。全国での約定総容量は約1億6,608万kWとなり、落札率は応札容量に対して96.4%と前年同様の高い水準を維持しましたが、特筆すべきはその価格水準です。約定処理の結果、エリアプライスは北海道で14,972円/kW、東北・東京で15,111円/kW、九州で15,112円/kWとなり、中部・北陸・関西・中国・四国の12,388円/kWを含め、第1回のオークションを除くと初めて、全てのエリアにおいてエリアプライスが指標価格(Net CONE)を大きく超過する事態となりました。
この高値での約定により、経過措置等を踏まえた約定総額は約2兆2,094億円に達し、過去5回のメインオークションと比較して突出して高い、過去最高水準を記録しました。また、経過措置考慮後の総平均単価も約13,303円/kWに跳ね上がりました。このような記録的な価格高騰の要因としては、世界的なインフレによる設備修繕費等の維持・管理費用の急激な上昇に加え、制度設計上の経過措置における控除率が年々減少していることが複合的に影響し、事業者がより高い価格で応札せざるを得ない厳しい経営環境にあることが挙げられます。さらに、需要制御によって供給力を提供する発動指令電源(DR)については、約718万kWという応札上限容量(647万kW)を上回る活発な応札があり、同価格での競合が発生したため、過去の確実な発動実績を示す実効性達成率によって落札の優先順位が決定されるという熾烈な競争が行われました。
容量市場の今後の在り方について
容量市場の約定総額が2兆円を突破し、国民負担の増大が懸念される中、制度検討作業部会および電力広域的運営推進機関を中心として、容量市場の包括的検証と今後の在り方に関する抜本的な議論が進められました。検討の主な論点として、①供給力確保の考え方、②非効率石炭火力の稼働抑制誘導措置、③指標価格(Net CONE)の見直しの3点が中心となりました。
第一の論点である「供給力確保の考え方」について、我が国は今後2030年代初頭にかけて、大規模な電源の休廃止が相次ぐ電源移行の過渡期にあり、特に夏冬の高需要期においては需給逼迫のリスクが極めて高い状況が続くと想定されています。このため、供給力確保に向けて市場退出の抑制措置を強化することが議論されましたが、委員からは、ペナルティの設定を過度に強化して退出を困難にすることは、脱炭素化に向けた非効率石炭火力のフェードアウト方針と矛盾する(妨げる効果がある)との指摘がなされ、安定供給と脱炭素化の制度間の整合性を慎重に図る必要があると整理されました。現行制度の枠組みを前提としつつ、目標調達量の算定精緻化や複数年約定の導入検討など、予見性を高める方策が継続して模索されます。
第二の論点である「非効率石炭火力における稼働抑制誘導措置の在り方」について、2025年度の実需給から、設計効率が42%未満の非効率石炭火力に対して、設備利用率が50%を超えた場合に容量収入を20%減額するという、高需要期に限定した稼働への誘導措置が導入されました。しかし、足下では電力需要の増加見通しによる供給不安が高まっていることに加え、地政学的リスク、特に中東情勢の悪化により今後のLNG調達に大きな不確実性が生じています。そこで緊急的な安定供給対策として、石炭火力の稼働を確保してLNG燃料を節約するため、2026年度においては特例的にこの稼働抑制措置を適用しないことが決定されました。次回のメインオークション(2030年度向け)では一旦現在の措置設定を維持し、次々回(2031年度向け)以降でカーボンプライシングの進展や実際の需給状況を評価した上で再検討することとされました。
第三の論点であり最も議論が白熱したのが「指標価格(Net CONE)の見直し」です。近年のオークションでNet CONEを超える応札が急増している実態を踏まえ、指標価格を最新の建設費高騰(発電コスト検証WGの2.05万円/kW)を反映した実態に見合った水準へと抜本的に引き上げる必要性が確認されました。Net CONE算定の基準となるモデルプラントについては、近年新設されるLNG火力の98%がCCGT(コンバインドサイクルガスダービン)方式であることを踏まえ、引き続きCCGTを採用することとしました。
指標価格の引き上げは、上限価格(Net CONEの1.5倍、約3万円/kWに上昇)の引き上げを伴うため、より多くの高コスト電源を市場に取り込み供給力を確保する効果がある一方で、小売電気事業者の容量拠出金負担が劇的に増加する懸念があります。そのため、負担の激変緩和措置が不可欠となり、複数の案が比較検討されました。指標価格以上をマルチプライスで約定させる案(案A-1)は拠出金抑制効果が高いものの、電源維持のインセンティブ(生産者余剰)が失われる懸念がありました。そのため、2026年度のメインオークションに向けた暫定的な対応として、指標価格以上の価格帯において「2段階目のシングルプライス領域」を設定する案(案A-2)を採用することが決定されました。ただし、委員からは案A-1を支持する声や、新設電源ではなく既設電源を前提とした指標価格へ見直すべきとの意見、2段階シングルプライスが特定の応札戦略を誘発する懸念から事後監視の強化を求める意見も出されました。そのため、この案A-2はあくまでシステム改修等の時間的制約を考慮した2026年度限定の措置とし、2027年度以降の恒久的な在り方については、供給力確保、小売負担、投資誘因等の多角的な観点から定量的な比較検討を引き続き継続していくことが明記されました。
さらに、需要側の目標調達量についても、近年の厳しい気象状況を反映し算定ロジックが精緻化されました。春季・秋季の厳気象対応分を月ごとに前後半に細分化して評価し、計画外停止率を最新の直近3年実績(火力・揚水の停止率増加を反映)に更新し、さらに年間計画停止可能量を従来の1.9ヶ月から実態に即した2.4ヶ月へと見直しました。これらの見直しを総合した結果、目標調達量は従来の算定から584万kW増加し19,581万kWへと大幅に引き上げられ、これらの諸元見直しは2026年度の追加オークションから直ちに適用されることとなりました。