経済産業省は、第23回「同時市場の在り方等に関する検討会」を2026年4月20日に開催しました。
同時市場とは、売り入札の方法として起動費や最低出力費用、増分費用カーブなどの情報を登録するスリーパートオファーという手法を採り、供給力としてのキロワット時と、調整力としてのデルタキロワットを同時に約定させる仕組みのことです。
本検討会においては、実需給の1週間程度前から実需給までの一連の仕組み全体を指して同時市場と呼んでいます。
この市場が議論される背景には、太陽光や風力などの変動性再生可能エネルギーの導入が拡大する中で、電力の安定供給とシステム全体の経済的最適化をいかに両立させるかという課題があります。
従来のように個別の市場で別々に調達するのではなく、系統の制約や発電機の起動停止費用などを総合的に計算し、最も効率的な電源の組み合わせと出力配分を決定することが求められているのです。
同時市場を支える電源起動と出力配分のロジック検証
自己計画電源に制約を課す必要性とその技術的検証
今回の検討会における主要な議題の一つは、電力広域的運営推進機関から報告された、同時市場における電源起動および出力配分ロジックの技術検証、いわゆる検証Aの進捗報告でした。
まず、自己計画電源に対して一定の制約を課すロジックの検証結果が報告されました。
自己計画電源とは、発電事業者自らが起動や出力容量下限までの出力を決定する電源のことです。
通常は事業者の計画が優先されますが、系統の混雑や需給のひっ迫時には安定供給の観点から制限が必要となります。
検証では、出力制限や混雑処理が必要な抑制側と、需給ひっ迫により焚き増しが必要な側の両方で制約条件が整理されました。
抑制側では、系統制約を考慮した上で経済的な起動停止計画を策定する計算であるSCUCを実施した結果、再生可能エネルギーの出力抑制に至る地点や、需要減少に対応するための下げ調整力が不足している地点の自己計画電源が制約の対象となります。
一方の焚き増し側では、SCUC計算で広域予備率が不足するなど上げ代が不足している系統の自己計画電源に対し、上限設定を解除して市場の約定に委ねる市場計画電源として扱うことが示されました。
グルーピング手法の進化と最適化への挑戦
クラスタリング手法から潮流感度ベースの手法へ
制約を課すべき自己計画電源を正確に特定するためには、電力系統を混雑している系統と非混雑の系統にグループ分けする必要があります。当初は地点別限界費用であるLMPを用いた階層型クラスタリング手法が検討されました。
この手法はループ状になった系統の混雑にも対応できる利点がありましたが、混雑の循環が生じることでグループの境界を明確に確定できないという課題や、1日48コマ分の計算に40分程度を要するという計算時間の問題が残りました。
これに代わる手法として提案され有効性が確認されたのが、潮流感度ベースの手法です。これは直流法潮流計算を用い、需要を1メガワット増加させ、電源を1メガワット追加した際の潮流の増減から混雑系統を分類するものです。
この手法によりループ系統の境界も正しく判別できることが確認され、今後の詳細検討のベースとされることになりました。さらに、この潮流感度を用いた手法において、直流法最適潮流計算であるDCマイナスOPFを活用し、出力を再配分するロジックも構築されました。自己計画電源の調整コスト最小化や発電コストの最小化など、目的関数を設定することで柔軟な最適化が可能となります。
この手法は既存電源の並列状態を変更しない条件であれば計算が非常に高速であり、日間24断面に対してトータル0.5秒程度、広域連系系統モデルでも約60秒で計算が収束することが確認されました。これにより、これまでは次の市場取引で制約を反映するとしていたものを、1回の市場取引の中で制約処理を完了できる見通しが立ち、技術検証会の全項目が完了して閉会となることが報告されました。
同時市場の実現に向けた第1フェーズの詳細検討事項
市場開催から価格規律までの幅広い論点
上記に併せて、資源エネルギー庁から第二次中間取りまとめを前提とした第1フェーズにおける詳細業務設計および技術研究等の対象となる検討事項の全体像が提示されました。
検討事項は大きく7つの項目に分類されています。

開催市場の項目では、時間前市場の開催スケジュールを夕方1回と当日2回の計3回程度とすることや、直前市場の開催回数などが挙げられました。
入札と登録の項目では、火力発電の運転制約の登録方法や、データセンターなど大規模需要の地点を特定した入札の要否、内部相対取引であるIBTの扱いなどが検討されます。
約定の項目では、一般送配電事業者であるTSOの想定需要と小売事業者の想定需要の扱い方や、調整力の価格算定方法、送電ロスの扱いが論点となります。
価格規律と取引監視の項目では、市場支配力の行使に関する規律や、電力ガス取引監視等委員会との連携が示されました。
アップリフトの項目では、市場価格では起動費などを回収できない場合の個別補償の仕組みについて、対象や負担配分が検討されます。そして運営主体とその他の項目では、同時市場の運営主体の決定や、特殊なリソースの扱い、現行のインバランス料金制度との関係、次期中央給電システムとの役割分担などが幅広く挙げられました。
全体最適と安定運用を見据えた専門家からの提言
他市場との連携と実系統における実現性の追求
これらの報告に対し、委員やオブザーバーからは多角的な視点から意見が出されました。
五十川委員や秋元委員が共通して指摘したのが、個別の要素最適化にとどまらず、市場全体としての最適化と事業者の予見性確保の重要性です。事業者が必要な費用を回収でき、適切な価格シグナルが機能するよう、他の市場との関係も含めて全体を俯瞰した制度設計を求められました。
また、小宮山委員からは計算負荷への懸念も示されています。
日本の複雑な実系統において、TSO需要と小売需要のバランスを取る約定ロジックを適用した場合、計算負荷が過大になる可能性があるため、他の案も含めて柔軟なオプションを検討すべきとの意見がありました。
さらに、送配電網協議会の山本オブザーバーからは運用実態との乖離に関する指摘もありました。
火力発電の複雑な多岐にわたる運転制約をすべて市場の約定ロジックに組み込むことは困難であるため、市場結果と実際の運用の乖離をバランシンググループ計画の中でどのように調整するのか、またゲートクローズ以降の実運用におけるTSOの調整範囲など、市場と現場の役割分担を明確にし、必要に応じて優先給電ルールなど現行ルールの見直しも視野に入れるべきとの実務的な提言がなされています。
今後はこれらの意見を踏まえ、新たに設置される業務設計技術研究会において、同時市場の実装に向けた詳細な検討が進められることになります。