第87回電力・ガス基本政策小委員会における議論の背景
サイバーセキュリティ確保に向けた課題と制度的空白の解消
第87回総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策小委員会において、分散型電源のサイバーセキュリティ対策に関する重要な議論が行われました。
近年、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの導入が急速に拡大する中で、これらの発電設備を系統に接続するためのパワーコンディショナーなどの機器に対するサイバー攻撃の脅威が懸念されています。
しかしながら、現行の電気事業法上では、一般用電気工作物および小規模事業用電気工作物に該当する50キロワット未満の小規模な太陽電池発電設備に対して、サイバーセキュリティの確保に特化した明確な技術基準への適合義務が規定されていないという制度的な空白が存在していました。
小規模な太陽光発電設備は個々の出力は小さくても全国に大量に普及しており、仮にこれらの機器が同時にサイバー攻撃を受けて不正に操作された場合、電力系統全体に深刻な周波数変動を引き起こし、大規模な停電につながるリスクをはらんでいます。この課題に対応するため、同委員会では新たな評価制度を活用した対策の強化が喫緊の課題として取り上げられました。
小規模太陽光発電設備へのJC-STAR制度の適用検討
星1レベルの基準活用によるセキュリティ機能の評価と可視化
同委員会における議論の結果、50キロワット未満の小規模太陽光発電設備のパワーコンディショナーについて、系統連系手続きの過程でサイバーセキュリティ対策が講じられているかを確認する仕組みを構築することが決定されました。
その具体的な手段として着目されたのが、IoT製品のセキュリティ機能を評価し可視化するための枠組みであるセキュリティ要件適合評価及びラベリング制度、通称JC-STARです。このJC-STAR制度は、日本国内の機器のセキュリティ水準を向上させるために設けられたものであり、製品の機能レベルを星の数でわかりやすく示すものです。
議論の中では、この制度で定められている統一的な最低限の適合基準である星1レベルをパワーコンディショナーに適用できないかという点が焦点となりました。結論として、JC-STAR星1制度の今後の普及状況を慎重に見極めつつ、パワーコンディショナーにおける同制度の活用について官民が緊密に連携して具体的な検討を進めていく方針が示されました。
分散型電源全体への拡大と上位基準の整備に向けた方向性
パワーコンディショナー独自の星2以上の適合基準策定への道筋
さらに同委員会では、JC-STAR制度の活用を小規模な太陽光発電設備だけに限定せず、他の様々な分散型電源に対しても広げていく可能性について検討していくことが合意されました。
加えて、標準的な星1レベルの基準を満たすことだけでは不十分となる将来の高度なサイバー攻撃の脅威を見据え、分散型電源が直面しうる固有のサイバーリスクや機器の特性を考慮した議論も行われました。
特に、パワーコンディショナーに求められる複雑な制御機能や系統への影響の大きさを考慮し、JC-STAR制度において星2以上の高度なセキュリティ水準を満たすためのパワーコンディショナー独自の適合基準を新たに整備していくことについても併せて検討を進めるという重要な結論に至りました。これにより、単なる最低限の対策にとどまらず、機器の重要度やネットワークに対する影響度に応じた多層的かつ強靭なサイバー防護体制の構築が目指されることになります。
アグリゲーター向け対策と官民一体となった今後の展開
ガイドライン改定を通じたシステム全体のレジリエンス向上
ハードウェアであるパワーコンディショナーそのもののセキュリティ対策の強化に加えて、多数の分散型電源を束ねて統合的に管理および制御を行うアグリゲーター側のセキュリティ対策も同時に強化していくことが不可欠とされています。
アグリゲーターは通信技術を用いて各地に点在するリソースをひとつの仮想的な発電所のように制御する重要な役割を担っており、そのシステムが侵害された際の影響は極めて甚大です。この点に関連する取り組みとして、分散型電源を管理するアグリゲーター向けに、2025年5月にエネルギーリソースアグリゲーションビジネスに関するサイバーセキュリティガイドラインの改定がすでに行われました。このように、機器単体の認証制度であるJC-STARの導入検討と、システム全体を管理する事業者向けのガイドライン整備という両輪の対策が進行しています。
同委員会での決定に基づき、今後は関係省庁や業界団体が協力し、分散型エネルギーリソースが安全に電力ネットワークに統合されるための基盤作りが加速していくことになります。
既設発電所での取り扱い
既設太陽光発電所におけるPCS(パワーコンディショナー)など既設機器の更新時に、「一部設備の交換」であっても発電所全体に新基準適合が求められるのかが、今後の制度運用上の論点となります。
FIT初期に導入された高圧太陽光では、既設PCSの製造終了や保守部品不足が進行しており、故障時には新型機器への部分更新を迫られるケースが増加しています。
この際、交換対象機器のみならず、発電所全体について現行基準適合や再認定、系統連系協議の見直しが必要となれば、改修費用や停止期間が大幅に増加する可能性があります。
特に複数PCSで構成される高圧案件では、設備更新の柔軟性が失われる懸念もあり、既設設備への経過措置や部分更新時の扱いが今後注目されそうです。
