米国発のサステナビリティ開示基準SASB(Sustainability Accounting Standards Board)は、現在、IFRS財団傘下のISSB(International Sustainability Standards Board)へ統合され、国際的なサステナビリティ開示の重要な基盤の一つとなっています。SASBの特徴は、「業種ごとに投資家へ重要となるESG情報」を定義している点にあります。

例えば、航空会社と電力会社では、重要となる環境リスクやKPIが大きく異なります。SASBは、業界ごとに重要性の高い指標を整理し、企業間比較をしやすくすることを目的としています。
出典:IFRS Foundation - SASB Standards
特に電力セクターでは、燃料構成、系統排出係数、送配電効率、水使用量、再エネ比率、電源ポートフォリオなどが重要な指標として位置付けられています。これは、電力会社が気候変動リスクやエネルギー転換の中心に位置する産業だからです。
電力セクターで重視される「Scope2」とKPI
電力分野では、GHG Protocolに基づくScope1・2・3排出量が主要KPIとなっています。特にScope2では、企業が購入した電力に伴う排出量をどう評価するかが重要なテーマです。
現在、国際的には主に二つの算定方法が用いられています。一つは、系統平均排出係数を用いる「location-based(ロケーション基準)」、もう一つは、再エネ証書やPPAなど契約情報を反映する「market-based(マーケット基準)」です。
出典:GHG Protocol Scope 2 Guidance
ロケーション基準は、実際に接続されている地域電力系統の平均排出係数を用いるため、系統全体の実態を反映しやすい一方、個別企業の再エネ調達努力が見えにくいという課題があります。一方、マーケット基準では、非化石証書や再エネ証書、PPA契約などを通じた調達努力を反映できる反面、「実際にその時間帯にクリーン電力が供給されていたのか」という点について議論が残されています。
アワリーマッチングへの関心も拡大
こうした中で近年、欧州や米国を中心に「アワリーマッチング(Hourly Matching)」への関心が高まっています。これは、年間ベースで再エネ証書を保有するだけではなく、「電力を消費した時間帯」と「再エネが発電された時間帯」を時間単位で一致させようとする考え方です。
特にAIデータセンターや半導体工場など、24時間大量に電力を消費する産業では、年間ベースの再エネ調達だけでは実態を十分表現できないのではないか、という問題意識が広がっています。
現時点で、SASBやISSBがアワリーマッチングを正式に義務付けているわけではありません。ただし、GHG ProtocolのScope2改定議論では、hourly matching、deliverability、same grid、residual mixなどの概念が検討されています。
出典:GHG Protocol Scope 2 Discussion Paper
また、SBTi(Science Based Targets initiative)では、将来的な時間一致型電力調達について議論が進みつつあります。
もっとも、制度化にはスマートメーター整備、時間粒度データ、証書制度、国際整合性など多くの課題が残されています。そのため、現時点では「方向性としての議論段階」と見るのが実態に近い状況です。
ただ、SASBやISSBが重視する「比較可能性」や「実態忠実性」の考え方を踏まえると、今後は単なる年間MWh一致ではなく、「いつ・どこで・どのような電力を使ったのか」を重視する方向へ徐々に進む可能性があります。電力セクターにおけるサステナビリティ開示は、量だけでなく、時間や場所の概念も含めた“質”の議論へ入り始めていると言えそうです。
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