時間一致・供給可能性・SSSが再定義する電力由来排出の全体像
企業の電力由来排出であるScope2は、現在大きな転換点にあります。従来の場所ベース(Location-based)と市場ベース(Market-based)という枠組みに加え、「時間一致(アワリーマッチング)」と「供給可能性(Deliverability)」という概念が導入され、電力と環境価値の関係はより精緻に再定義されつつあります。
一方で、この新しい枠組みの中核には、実務上極めて重要でありながら十分整理されていない論点が存在します。それが、SSS(標準供給サービス)と、FIT・FIPを含む再エネの扱い、そしてオンサイト再エネと系統電力の関係です。
本稿では、これらを含めたScope2の全体像を整理します。
■ Scope2の基本構造
Scope2とは、購入した電力に伴う間接排出です。算定方法は以下の2つに分かれます。
・場所ベース
地域内の電源ミックスに基づく平均排出係数
・市場ベース
契約や証書に基づく排出係数
しかし現在は、この2つに加えて、
・時間(いつ発電されたか)
・空間(どこから供給可能か)
が重要な軸となっています。
■ 市場ベースの進化 時間一致と供給可能性
市場ベースにおいては、以下の2つが評価の中核となります。
・時間一致(アワリーマッチング)
電力消費と再エネ発電が同一時間帯で一致しているか
・供給可能性(Deliverability)
その電力が物理的に供給可能か(同一市場・系統制約)
この2つを満たすほど、環境価値の信頼性は高くなります。
■ SSSとFIT・FIPの根本問題
ここで重要なのがSSSの存在です。
SSSとは、証書や特定電源に紐づかない標準供給であり、多くの再エネもこの枠組みに含まれる可能性があります。特に日本においては、FITやFIPによる再エネ電源は補助制度のもとで市場に供給されており、個別需要家との直接的な紐づきがないケースが多いです。
この結果、以下の問題が生じます。
・FIT/FIP電源はアワリーマッチングの対象外となる可能性
・環境価値が特定需要家に帰属しない
・結果としてSSS扱いとなる
つまり、再エネであっても、時間一致の枠組みでは「ゼロ排出」として扱えないケースが広く存在するという構造的問題があります。
■ アワリーマッチングとレジデュアルミックス
アワリーマッチングの枠組みでは、電力消費は以下のように分解されます。
・時間一致している部分
→ 排出係数ゼロ
・一致していない部分(SSS含む)
→ レジデュアルミックス適用
レジデュアルミックスとは、環境価値が主張されなかった残余電力の平均排出係数です。この算定は制度的にも極めて複雑であり、Scope2改定の中核論点の一つとなっています。
■ オンサイト再エネの曖昧性
オンサイト(自家消費)再エネもまた、重要かつ未整理の領域です。
日本では、
・オンサイト → 温対法(環境省)
・系統電力 → 高度化法(経産省)
と制度が分断されています。
また欧米においても、
・オンサイト発電の計測が難しい
・系統との関係が不明確
といった理由から、オンサイトとグリッド電力の統合は未成熟な領域です。
しかし本来は、
・オンサイト発電
・蓄電池
・系統電力
を統合したエネルギーマネジメントが必要であり、これはScope2の次のフロンティアといえます。
■ 手法別の序列(実務的評価)
Scope2の観点から見た電力調達手法は、以下のような階層で整理できます。
最も高い評価
・オンサイト再エネ+蓄電池による完全自家消費
・マイクログリッドによる物理的時間一致
次に高い
・オフサイト・フィジカルPPA(近接・時間一致)
中間
・バーチャルPPA(時間一致なしだが追加性あり)
低い
・環境価値(証書)単独
ただし環境価値についても、時間情報を付加することでアワリーマッチングに近づける可能性があります。
■ KPIとしてのアワリーマッチング率と需要家排出係数
評価指標としては、
・需要側アワリーマッチング率
・供給側アワリーマッチング率
に加え、
・需要家排出係数(排出量÷消費量)
が重要です。
この需要家排出係数は、企業規模に依存せず比較可能であり、電力の「燃費」のような指標として機能します。
■ 場所ベースの進化 時間別電源ミックス
場所ベースにおいても、時間別電源ミックスの導入が進んでいます。
・時間別排出係数
・時間別消費量
を掛け合わせることで、より精緻な排出量算定が可能となります。
■ AMIとの対立構造
Scope2改定に対し、
・時間一致重視(Google等)
・追加性重視(Amazon、Meta等)
という対立があります。
これは、
・精緻性(when/where)
・追加性(new capacity)
のどちらを重視するかという問題です。
■ 制度移行 経過措置とタイムライン
Scope2改定では、
・適用範囲
・グランドファーザー条項
・2030年前後の実装
が重要な論点です。
■ 電力システムとの統合
Scope2は単独では成立せず、
・脱炭素(再エネ)
・安定供給(火力・蓄電池)
・経済性(電力価格)
との統合が不可欠です。
■ 地域別構造
・欧米:時間一致・制度高度化
・アジア:火力依存と安全保障
・日本:証書制度と市場設計の特殊性
■ 結論
Scope2は、
・時間
・空間
・契約
・制度
・電力システム
を統合する枠組みへと進化しています。
特に、
・SSSとFIT/FIPの扱い
・オンサイトと系統の統合
・アワリーマッチングの実装
は今後の中核論点です。
企業にとっては、単なる排出算定ではなく、電力調達とエネルギー戦略そのものを再構築する必要があります。
※本記事はハブです。
SSS、レジデュアルミックス、PPA、オンサイト、アワリーマッチング等は個別記事で詳述します。