はじめに:アワリーマッチングで変わる発電ビジネス
Scope2会計において、マーケットベース手法でのアワリーマッチングが導入・義務化される可能性が議論されています。これにより、再エネの環境価値(GC-EAC等)は、従来の年間単位ではなく、30分単位などの時間粒度で取引される世界へと移行していきます。
この変化は、発電事業者、とりわけ太陽光発電や系統用蓄電池といったプレイヤーにとって、収益構造そのものを大きく変えるインパクトを持ちます。

本稿では、こうしたアワリーマッチング時代において、発電者がどのように収益を最大化していくべきか、その鍵となる「発電者排出回避係数」という考え方を解説します。
- はじめに:アワリーマッチングで変わる発電ビジネス
- アワリーマッチング市場における価格形成
- 蓄電池・バイオマスの価値が顕在化する理由
- 発電者排出回避係数とは何か
- 排出回避係数の考え方と算定式
- 発電者の戦略:排出回避係数を高める
- Scope2の進化が意味するもの
- おわりに:価値は時間に決まる
アワリーマッチング市場における価格形成
アワリーマッチングの世界では、環境価値(GC-EAC)は時間単位で取引され、需給バランスによって価格が変動します。
ここで重要なのは、再エネの供給が時間帯によって大きく偏るという点です。
例えば太陽光発電の場合、昼間に発電量が集中し、夜間は発電がゼロになります。この特性は個々の発電所だけでなく、同一地域の多くの太陽光発電所に共通しています。
その結果、昼間には再エネ価値が大量に供給され、需給バランスから価格は低下しやすく、場合によってはゼロ円に近づくことも考えられます。
一方で、夕方から夜間にかけては再エネ供給が不足し、環境価値の希少性が高まり、価格にプレミアムがつく可能性があります。
蓄電池・バイオマスの価値が顕在化する理由
このような時間帯別の価格差は、電源ごとの価値を大きく変えます。
夜間にも供給可能なバイオマス発電や、昼間の電力を貯蔵して夜間に放出できる蓄電池は、希少な時間帯に再エネ価値(GC-EAC)を供給できるため、高い収益機会を得ることが可能になります。
では、この希少性をさらに高めるためにはどうすればよいでしょうか。
答えはシンプルで、「他の発電者が再エネ供給をできない、あるいは供給が少ない時間帯に発電すること」です。
これは、需要家側で行われる「昼シフト」と対になる概念です。需要家は排出係数の低い昼間に消費をシフトすることで排出量を下げますが、供給側はその逆に、再エネが不足する時間帯へと供給をシフトすることで価値を高めます。
すなわち、需要側の「消費のタイムシフト」に対して、供給側は「供給のタイムシフト(供給余力のシフト)」を行うことで、需給を時間単位で整合させることが可能になります。

このように、アワリーマッチングの世界では、需要と供給の双方が時間軸で最適化されることで、市場全体の効率性と脱炭素効果が高まります。
発電者排出回避係数とは何か
では、このような時間価値をどのように定量的に評価すればよいのでしょうか。
その指標が「発電者排出回避係数」です。
再生可能エネルギーの排出係数は一般にゼロです。しかし、それだけでは時間帯ごとの価値の違いを表現することができません。
ここで着目するのが、グリッドの排出係数です。
グリッド排出係数は、その時間帯における電力の平均的なCO2排出量を示しており、言い換えれば「その時間帯における低炭素電源の希少性」を表す指標とみなすことができます。
例えば、昼間の排出係数が0.3kgCO2/kWh、夜間が0.6kgCO2/kWhであれば、夜間の方が2倍の希少性を持つと解釈することができます。
排出回避係数の考え方と算定式
このグリッド排出係数を用いることで、「排出回避」という概念が導かれます。
ある時間帯において、グリッドに再エネ電力を1単位供給した場合、それによって回避されるCO2排出量は、その時間のグリッド排出係数に相当すると考えることができます。
これはマージナル排出係数で評価する考え方とも関連しますが、ここでは平均係数を用いた実務的な近似として捉えることができます。
したがって、各時間帯における排出回避量は以下のように表現されます。
排出回避量 = グリッド排出係数 × 発電電力量
さらに、一定期間における総排出回避量を総発電量で割ることで、発電者排出回避係数(加重平均値)が算出されます。
発電者排出回避係数 = 総排出回避量 ÷ 総発電量
すなわち、
発電者排出回避係数 = Σ(グリッド排出係数 × 発電電力量) ÷ Σ(発電電力量)
という形で定義されます。

この指標は、発電者がどの時間帯にどれだけ価値のある電力(GC-EAC)を供給しているかを定量的に示すものです。
発電者の戦略:排出回避係数を高める
アワリーマッチング時代において、発電者の収益最大化は、この排出回避係数をいかに高めるかにかかっています。
例えば太陽光発電の場合、単に発電量を最大化するだけでなく、発電時間帯を工夫することが重要になります。
具体的には、パネル角度の最適化によって夕方の発電量を増やす、あるいは蓄電池を併設して昼間の電力を夜間にシフトするなどの戦略が考えられます。
これにより、より希少性の高い時間帯に電力を供給でき、GC-EACの価値を最大化することが可能になります。
Scope2の進化が意味するもの
これまでのScope2は年間平均係数を前提としており、時間帯の価値は十分に反映されていませんでした。
しかし、時間帯別排出係数がロケーション基準・マーケット基準の双方に導入されることで、発電・消費のタイミングが定量的に評価されるようになります。
これは、発電者・需要家双方にとって「時間戦略」が経営上の重要要素となることを意味しています。
おわりに:価値は時間に決まる
アワリーマッチングの導入により、再エネの価値は量ではなく「時間」によって決まる時代に入っています。
発電者は、発電をタイムシフトすることで排出回避係数を高める行動変容が求められます。一方で需要家は、電力消費を低排出時間帯へシフトすることで需要家排出係数を抑制し、排出量を削減します。
このように、供給側と需要側の双方に対して、排出係数というKPIを通じた行動変容が促されます。
すなわち、需要の「消費シフト」と供給の「供給シフト」が相互に作用し、時間単位で需給を一致させる構造が自然に形成されていきます。

この定量的な仕組みは、ロケーション基準では時間帯別排出係数によって、マーケット基準ではアワリーマッチングによって実現されます。
両者の組み合わせにより、需給一体型の脱炭素が実現される新しい時代に突入していると言えるでしょう。
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