■ 10年で約5%増、年平均0.5%という前提の意味
日本の電力需要は、足元では増加方向に転じています。電力広域的運営推進機関(OCCTO)が公表したでは、今後10年間で電力需要(最大電力)が約5%増加する見通しが示されています。

これまでは、デフレ経済が進む中で、生産拠点の海外進出、少子高齢化の進行と、電力機器の省エネ効率の向上によって下げ基調が続いていて、今後も大きくその傾向にかわらないという考えが根底にあります。
OCCTO需要想定(直近・最重要)
2025年度 全国及び供給区域ごとの需要想定について(OCCTO)
- 公表日:2026年1月21日
- 内容:全国およびエリア別の電力需要見通し
- 法的根拠:業務規程に基づく公式想定
これは年平均に換算すると約0.5%の増加にとどまります。一見すると穏やかな伸びですが、この前提のもとで長期の電源投資や系統整備を判断してよいのかが、重要な論点となります。
- ■ 10年で約5%増、年平均0.5%という前提の意味
- OCCTO需要想定(直近・最重要)
- ■ 電源・送配電は20〜30年単位の意思決定
- ■ データセンター需要という“非線形リスク”
- ■ 単線シナリオと「想定下振れ」報道がもたらす萎縮
- ■ 欧州に見る複数シナリオ型の制度設計
- ■ 容量市場と供給力不足リスクの接続
- ■ Scope2改定とアワリーマッチングという新たな前提
- ■ 結論:不確実性を前提とした設計への転換
■ 電源・送配電は20〜30年単位の意思決定
電力システムの最大の特徴は、投資のリードタイムの長さです。発電所や送配電網は、計画、用地取得、環境アセスメント、建設を経て運転開始に至るまで、20年から30年を要することも珍しくありません。
したがって、短期的な需要変動ではなく、長期的な需要の振れ幅や不確実性を織り込んだ設計が不可欠です。年平均0.5%という単線的な前提に依拠した場合、想定を超える需要増加に対して後追いで対応する余地は極めて限られます。
■ データセンター需要という“非線形リスク”
需要の不確実性を高めている最大の要因が、データセンター需要です。生成AIの普及やクラウド投資により、特定地域における電力需要が短期間で急増する可能性があります。
一方で、投資判断や技術進展によって需要が抑制される可能性もあり、その振れ幅は極めて大きい領域です。つまり、平均値では把握できない“非線形な需要リスク”が存在しています。
また、自動車の電動化や、世界のサプライチェーンに綻びが生じ、経済安全保障の観点からも製造業の国内回帰が進む可能性もあります。
現行の需要想定では、これらは一定程度(とりわけデータセンター需要は別枠で)織り込まれているものの、マクロ経済や技術動向と連動したダイナミックなシナリオとして十分に展開されているとは言い難い状況です。
■ 単線シナリオと「想定下振れ」報道がもたらす萎縮
さらに問題を複雑にしているのが、需要想定の“事後評価”のあり方です。直近の需要想定では、前年の見通しと比較して当年度の想定が下振れしたことについて、「過大な見積もりで無駄な計画を立てた」といった趣旨の報道も一部で見られました。
こうした評価は一見合理的に見えますが、長期インフラの計画という観点からは慎重に捉える必要があります。需要想定は本来、不確実性を前提に一定の幅を持って設計されるべきものであり、単年度の差異だけで過大・過小を断定することは適切とは言えません。
現在需要想定を主に担当するのは、送配電会社であって、欧州のようなマクロ経済状況や構造変化に対する専門的知見が必ずしも高くない可能性があります。
そのような中で、こうした「減点主義」的な報道や評価が積み重なることで、担当者が大胆な上振れシナリオや余裕のある計画を提示しにくくなり、「安全側に振れない」萎縮効果を生んでいる可能性があります。結果が出るのが10年後ならなおさらです。
■ 欧州に見る複数シナリオ型の制度設計
この点で対照的なのが欧州のアプローチです。欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)は、複数の経済・電化・脱炭素シナリオを前提とした需要・供給分析を行っています。
需要の上振れ・下振れを制度的に織り込むことで、不確実性そのものを前提とした意思決定が可能となっており、単線的な予測とは本質的に異なる設計思想となっています。
実は、日本においても、電力自由化前は、複数の需要想定シナリオが示されていました。
■ 容量市場と供給力不足リスクの接続
需要想定の単線性は、供給力確保にも影響を与えます。容量市場は将来の供給力を確保する仕組みですが、その前提となる需要想定が過小であれば、供給力不足のリスクを内包することになります。
特にデータセンター需要が上振れした場合、ピーク需要の急増や系統制約を通じて、供給不足が顕在化する可能性があります。一方で、過剰投資は非効率と評価されやすく、結果として「余裕を持てない構造」が制度的に形成されています。
■ Scope2改定とアワリーマッチングという新たな前提
さらに見逃せないのが、GHGプロトコルにおけるScope2改定です。今後は、再エネ調達において「時間一致(アワリーマッチング)」や「供給可能性」が重視される方向にあります。
これは、再エネ量の確保だけでなく、電力の使用タイミングと供給の整合性が問われることを意味します。その結果、蓄電池や需要調整、調整力電源の重要性が高まります。
しかし、現行の需要想定や電源構成の議論では、この新たな前提が十分に織り込まれているとは言えず、電力システムと環境価値の議論が分断されている状況にあります。
■ 結論:不確実性を前提とした設計への転換
年平均0.5%という需要増加の裏側には、データセンター需要の急変や制度変化といった大きな不確実性が存在しています。これに対し、単線的な需要想定では対応しきれない可能性があります。
本来必要なのは、複数シナリオに基づく需要想定と、それを前提とした供給余力の確保、そしてScope2改定やアワリーマッチングを織り込んだ電源構成の再設計です。
電力システムは長期インフラであり、短期的な効率性だけでなく、不確実性への対応力が問われます。需要想定の設計思想そのものを見直すことが、今後のエネルギー政策の重要な課題となります。