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31020000 環境価値を取引する「クリーン燃料証書」の制度設計を議論

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2026年4月17日、経済産業省において「第21回 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会」が開催されました。

本委員会では、環境価値を取引する「クリーン燃料証書」の制度設計が議論されました。

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2024年度までの検討状況

日本国内において、持続可能な航空燃料(SAF)やバイオディーゼル、合成燃料といった次世代燃料の導入を促進するため、環境価値認証・移転制度である「クリーン燃料証書」の創設を目指す方向性が打ち出されました。現状のサプライチェーン管理手法には、IPモデル(Identity Preservation)やセグリゲートモデルといった物理的な連関を厳密に求める手法が存在しますが、これらの手法では供給インフラへのアクセスや輸送コストが大きな障壁となります。さらに、次世代燃料は既存の石油製品と物理化学的な性質や性状が異なる場合があり、単純な代替や既存インフラでの混合が難しいという問題点がありました。

この問題に対する解決策として、物理的な燃料から環境価値(属性)を完全に分離し、サプライチェーンを超えて移転可能にする「ブックアンドクレーム方式」と「属性取引」を組み合わせた制度設計が進められています。制度の立ち上げについては、2025年度に運営体制や規定類の準備を行い、2026年度に第1段階として少量サンプルを用いた実証を開始し、2026年末を目途に第2段階である本格稼働の是非を検討、2027年度以降に第3段階として取引の活性化やGHG Protocolなど海外イニシアティブへの対応を拡張・発展させていく方針です。

2025年度の調査結果

2025年度は、バイオエタノール・ETBE、e-ガソリン、SAF、HVO、FAME、合成メタン・バイオガスについて、物理的な性質、税制や法規制などの制度、市場のニーズ、そして環境価値を分離した後の「抜け殻燃料」の販売可否等について調査が行われました。その結果、e-ガソリン、SAF、HVO、合成メタン・バイオガスは環境価値分離が可能と判断されましたが、バイオエタノール・ETBEおよびFAMEは証書化のニーズ不足や技術的・制度的課題から、2027年度以降に検討を見送ることとなりました。

バイオエタノール・ETBE 現状として、E3(エタノール3%混合)やETBE7相当までは日本国内の全ての車両に使用可能ですが、E10やE20など高濃度になると対応車両が限定され、誤給油防止措置が必要となります。バイオエタノール(直接混合)は熱量の違いや相分離が起きやすいこと、腐食性・揮発性が高いことから、サプライチェーン全体で水分混入・腐食・蒸発ガス対策が必要であるという問題点があります。制度面でも、揮発油税の軽減措置の適用有無に違いがあります。また、BtoC商品であるガソリンスタンドにおいて、環境価値を分離した燃料の販売時に一般消費者への説明が困難であるため、証書化の検討は見送られました。

e-ガソリン 現状、ガソリンの規格に合わせて利用可能であり、温度15度において0.8017を超えない比重を有する炭化水素油として揮発油税法の揮発油にも該当します。問題点として、物理的に燃料を長距離輸送すると輸送コストが大きくなることが挙げられますが、ドロップイン燃料としての親和性が高いため、これを解決するブックアンドクレーム方式の証書化が進められます。

SAF(持続可能な航空燃料) 現状、国際規格であるASTM D7566に適合するため、化石由来のジェット燃料に最大50%まで混合して使用され、混合後は区別なく扱えます。ICAOによるCORSIAの枠組みにおいてもブックアンドクレーム方式が認められています。脱炭素化を進めたい地方空港への供給手段や、空港のインフラ・空きタンクの制約が問題点となっており、全国どこでも環境価値を利用できる証書化が強力な解決策となります。

HVO(水素化植物油) 現状、低密度で芳香族が少なく、軽油に近い性状であるため使用機器(エンジン等)への影響が少ない燃料です。地方税法上、自動車の内燃機関の燃料として使用される場合は混合濃度によらず軽油引取税が課税されますが、用途や濃度によって免税措置や製造・譲渡承認の有無が異なり手続きが複雑であるという問題点があります。陸運、船舶、建設現場など需要家からのニーズは高いものの、供給可能エリアが限定的であるため、環境価値を切り離す証書化が不可欠です。

FAME(脂肪酸メチルエステル) 現状、品確法において軽油の総量に対して5%(B5)までの混合が認められています。しかし、軽油と比較して酸化しやすく長期保管が不可であり、低温流動性が低く、熱量も約10%低いという問題点があります。また、BtoB製品としての側面が強く、需要家が自ら環境価値を主張したいため、環境価値を剥がした抜け殻燃料を市場で販売することが極めて困難であり、証書化の検討は見送られました。

合成メタン・バイオガス 現状、主成分がメタンであるLNG・天然ガスと物性に差がありません。問題点として、日本の都市ガス導管はすべてつながっているわけではなく、現物を需要家まで届ける輸送コストの上昇が挙げられます。解決策として、Scope1へ適用可能なブックアンドクレーム方式による証書化が求められています。

2026年度の検討・実証の方向性

2026年度は、環境価値の分離が可能と判断されたe-ガソリン、SAF、HVO、合成メタン・バイオガスを対象に、証書制度の詳細設計と少量サンプルを用いた実証実験を進めます。 現状の課題として、環境価値の二重計上の防止と、海外で製造された燃料を含む複雑なサプライチェーンにおける客観的な環境価値の移転を担保するシステム構築が求められています。また、CI値(炭素集約度:g-CO2e/MJ)の算定や検証に係る手続きコストの負担も問題点として指摘されています。

解決策として、まず環境価値認証と証書発行のポイントを適切に設定します。具体的には、e-ガソリンとHVOは揮発油税や出荷管理の観点から「製油所等からの出荷時点」、SAFは燃料の燃焼が確定しCORSIA等の国際ガイドラインとも整合する「空港貯蔵設備への投入時点」、合成メタンは「ガス導管注入地点」等を発行ポイントとします。サプライチェーン管理の原則として、証書発行ポイントまでは「マスバランス方式」による物理的連関の管理を求め、それ以降は「ブックアンドクレーム方式」による環境価値の自由な移転を認める設計とします。

また、CI値の算定については実証段階では任意としつつ、算定を行った事業者がPRできるよう証書に記載欄を設けます。加えて、Scope3削減価値を含む証書と含まない証書を明確に区別し、別の枠組みでScope3証書が二重に発行されることを防ぐ仕組みを導入します。 認証機関の体制については、初期段階では制度管理者が認定を行う形をとりますが、将来的にはCI値算定の必須化や規格整備の進展に合わせて、ISO14065(環境情報の妥当性確認・検証)やISO17065(製品認証)の認定保有を段階的に要件化していく方向性です。

クリーン燃料証書の実証実験においてHVO(水素化植物油)が優先される理由

このうち前述、2026年度は実証の体制が整った燃料種から順次着手する方針ですが、クリーン燃料証書の実証実験においてHVO(水素化植物油)が優先される理由は、主に以下の3点です。

実証体制が整っている:2026年度の実証実験は少量のサンプルを用いて行われますが、HVOは国内製造・海外輸入のケースや、異なる需要家間での環境価値移転など、複数パターンの検証を行うための実証体制が他燃料に先駆けて整備されているためです。

環境価値の分離(証書化)がしやすく、既存商流で販売しやすい:HVOは既存の化石由来軽油に極めて近い物理化学的性状を持っています。そのため、環境価値を切り離した後のいわゆる「抜け殻燃料」であっても、特別な専用車両やインフラの改修を必要とせず、既存の軽油商流に乗せて販売しやすいという大きなメリットがあります。

需要家からの強いニーズがある:HVOは、バスやトラックなどの陸運、建設機械、船舶など非常に幅広い用途で利用が期待されています。しかし、現状では国内の供給拠点が限られており、特定の工事現場や地方の港へ現物を直接届けることが地理的およびコスト的に困難なケースが多いのが実情です。そのため、物理的な燃料と環境価値を切り離して取引できる「ブックアンドクレーム方式」のクリーン燃料証書に対する需要家からのニーズが極めて高く、制度化が急務となっているためです。