2026年4月17日、経済産業省において「第21回 総合資源エネルギー調査会 資源・燃料分科会 脱炭素燃料政策小委員会」が開催されました。
本委員会は、持続可能な航空燃料(SAF)やバイオディーゼル、バイオエタノールなどの次世代燃料の導入拡大に向けた政策的支援、品質規格・税制の見直し、および環境価値を取引する「クリーン燃料証書」の制度設計などを具体的に議論することを目的としています。 メンバーとして、秋元圭吾委員、岩田まり委員、工藤拓毅委員をはじめとする13名の有識者が名を連ねたほか、オブザーバーとして石油連盟、全国バイオディーゼル燃料利用推進協議会、定期航空協会、日本自動車工業会が参加しました。
委員会で配布・議論された各資料の詳細な内容(現状、課題、今後の方向性)は以下の通りです。
バイオディーゼル普及促進に向けた取組について
トラックやバスなど公道用車両向けの軽油・FAME(脂肪酸メチルエステル)混合燃料は、品確法によりFAME濃度の上限が5%(B5)に設定されています。また、軽油と同等の性状を持つHVO/RD(水素化植物油/再生可能ディーゼル)については、比重等の関係で地方税法上の「軽油」の定義に合致しない場合があり、混和や譲渡の際に事前の承認が必要となるなど、流通が大幅に制限されています。
建設機械などオフロードでの利用において、脱炭素化のために高濃度(B20やB30)のFAMEを利用したいというニーズがありますが、日本にはB5を超える規格が存在しないため、国内機械メーカーの保証対象外となっていることが課題です。また、HVO/RDの利用やFAME混合時において、軽油引取税の免税対象や課税方法(かさ増し分への課税など)が複雑であり、普及の障壁となっています。
公道用燃料については、令和8年度の予算事業でB5からB7への品確法省令改正に向けた調査を開始します。オフロード向けの高濃度バイオディーゼルについては、「高濃度バイオディーゼルの導入推進に向けた検討委員会」での議論を踏まえ、まずはB20の民間(業界)規格を策定し、将来的なJIS化を目指します。HVO/RDについては、軽油JISにおいて5%程度以下の混合を明文化した上で、普及を阻害している地方税法上の規制や運用の見直しについて総務省と検討を進めます。
持続可能な航空燃料(SAF)に関する取組の現状
日本は2030年に「本邦エアラインによる燃料使用量の10%をSAFに置き換える」との目標を掲げています。国内ではENEOS、出光興産、コスモ石油などによる5つのSAF製造プロジェクトが設計(FEED)段階に進んでおり、合計100万KL以上の生産規模が見込まれています。
商用規模プラントの建設には約2年半〜3年を要し、税制や補助金(GI基金、GX経済移行債等)の適用要件を考慮すると、遅くとも2026年末頃までに最終投資決定(FID)を行うことが必須です。しかし、航空会社と石油元売事業者との間でSAFの売買契約の交渉が難航しており、国際競争力のある価格の実現や、コスト負担のあり方が喫緊の課題となっています。
エネルギー供給構造高度化法に基づき、年間10万kL以上のジェット燃料供給事業者に対し、2030〜2034年度の5年間において、2019年度に国内供給されたジェット燃料のGHG排出量の5%相当以上のSAF供給を義務付ける目標を設定し、法制化作業を開始します。また、SAFの初期需要創出のため、航空利用者全体でコストを広く負担する仕組み(利用者負担制度)の創設に関する検討を集中的に行います。
バイオエタノール調達先拡大に向けた委託調査
現在、エネルギー供給構造高度化法により、特定石油精製業者に原油換算で年間50万kLのバイオエタノール利用が義務付けられています。調達先として、既存のブラジル産サトウキビ由来と米国産トウモロコシ由来に加え、生産コストが安価で増産が見込まれるブラジル産トウモロコシ由来や、タイ産サトウキビ・キャッサバ由来のバイオエタノールの供給ポテンシャルに注目が集まっています。
これらの新たな調達先からバイオエタノールを導入するためには、原料栽培から製造・輸送に至るまでのライフサイクルGHG(LCGHG)排出量を正確に算定し、告示の判断基準に追加するための「既定値」を策定する必要があります。 ブラジル産トウモロコシ由来についてはブラジル政府が提供する「RenovaCalcモデル」を、タイ産サトウキビ・キャッサバ由来については国際的な「GREET2024モデル」を用いてLCGHG既定値案を算出しました。なお、大豆の裏作として栽培されるブラジル産トウモロコシや、既存農地からの転換であるタイ産サトウキビ・キャッサバは直接的な土地利用変化を伴わないと想定されますが、森林伐採など「直接的土地利用変化」を伴う場合は、規定値の利用を不可とする方針で告示改正を行います。
次世代液体燃料政策について
SAFやバイオエタノールをはじめとする次世代燃料は、脱炭素化だけでなくエネルギー安全保障の観点からも重要です。現在、欧米の石油メジャーや大手エネルギー企業は、農業科学企業と合弁会社を設立するなどして、バイオ燃料原料(油糧種子や使用済み食用油等)の獲得競争を世界規模で激化させています。
バイオ燃料の主要生産国であるインドネシア、インド、クウェート等では、自国産業の保護や需給逼迫を理由に、輸出制限やパーム油・使用済み食用油の禁輸措置が突如施行されるカントリーリスクが顕在化しており、日本企業が単独で海外出資に踏み切ることは極めて困難な状況です。
単なる燃料の輸入(トレーディング)ではなく、日本企業が海外の製造事業へ直接出資することでオフテイク(長期引取)の交渉力を高め、安定的かつ低廉な調達を実現することが重要です。そのため、GX経済移行債補助金やグローバルサウス補助金などのリスクマネー供給を強化し、政府の資源外交と連携しながら、海外での原料・上中流権益の確保を強力に支援していきます。
クリーン燃料証書の検討状況及び今後の方向性について
次世代燃料の「環境価値」を物理的な燃料から分離し、ブックアンドクレーム方式と属性取引を用いて移転可能にする「クリーン燃料証書」の創設を目指しています。2025年度の調査で、e-ガソリン、SAF、HVO、合成メタン・バイオガスなどは、既存インフラでそのまま利用可能であり、証書化に向けた環境価値の分離が可能と判断されました。
燃料種によって物理化学的性質や税制が大きく異なります。特に、バイオエタノール(直接混合)やFAME(バイオディーゼル)は、混合率が上がると専用車両が必要になったり、品質劣化リスク(酸化等)が生じるため、環境価値を剥がした後の「抜け殻燃料」を市場で販売することが難しく、証書化制度の導入に課題を残しています。
2026年度は、環境価値の分離が可能な「e-ガソリン、SAF、HVO、合成メタン・バイオガス」を対象に、証書制度の詳細設計と少量サンプルを用いた実証実験を進めます。具体的には、HVOを用いた実証から着手し、製造所や製油所からの出荷時点を「証書発行ポイント」として二重計上防止策などを検証します。一方、バイオエタノールやFAMEについての証書化の検討は、2027年度以降に見送ることとしました。