エネルギーシンクタンクのEmberは、2026年4月14日、現在の地政学的混乱が世界のエネルギーシステムに与える影響を分析した報告書「The New Twin Fossil Shock」を発表しました。
本報告書は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻と、2026年に発生した中東情勢の悪化に伴うホルムズ海峡の封鎖という、2020年代に起きた二つの重大な「化石燃料ショック」を分析しています。これらの危機が、期せずして世界を化石燃料依存から脱却させ、電化時代(エレクトリック・エイジ)への移行を劇的に早める契機になっているとしています。
1970年代との決定的な違い:コスト競争力のある代替技術の存在
現在の状況は1970年代のオイルショックと多くの類似点がありますが、Emberは当時と現在では決定的な違いがあると指摘しています。1970年代には石油の代替となる実用的な技術が限られていましたが、現代には太陽光発電、風力発電、蓄電池、電気自動車(EV)といった、拡張性が高くコスト競争力に優れた「エレクトロテック(電気技術)」が既に存在しています。
これらのクリーンエネルギー技術は、化石燃料価格の高騰や供給不安に対する「永続的な解決策」として機能します。今回のショックは、単なる一時的なエネルギー危機ではなく、世界中の国々がエネルギー安全保障を確保するために、自国で生産可能な再生可能エネルギーへと舵を切る強力な後押しとなっているとしています。
ホルムズ海峡封鎖によるLNG供給断絶と電化への選択
2026年の軍事紛争によるホルムズ海峡の閉鎖は、世界の石油およびLNG(液化天然ガス)の主要供給ルートを断絶させ、国際市場に深刻な混乱を招きました。しかし、この危機への対応は、各国の選択に委ねられています。従来の化石燃料の枠組みに固執して新たな供給源を探すのか、あるいは地域に根ざした電化による安全保障へと踏み出すのかが問われています。
Emberの分析では、化石燃料への回帰は短期的かつ不安定な解決策に過ぎず、長期的な安定をもたらすのは「地産地消型」の電気システムであると強調しています。太陽光や風力は燃料費がゼロであり、地政学的なリスクにさらされることなく、安価で安定した電力を供給し続けることが可能になります。
産業構造の転換とエレクトリック・エイジの到来
今回の二重のショックにより、世界は「電化」という不可逆的な変化のプロセスに入りました。エネルギー消費の構造そのものが、燃焼(化石燃料)から電気(再エネ)へとシフトすることで、産業全体の効率性も向上します。
Emberは、政府や投資家に対し、古い化石燃料のプレーブック(戦略)に戻るのではなく、電化時代の加速をチャンスと捉えて投資を集中させるよう求めています。この転換は、環境保護のためだけでなく、国家の安全保障と経済的自立を確立するための最も合理的かつ迅速な手段であると結論づけています。
出典:https://ember-energy.org/latest-insights/the-new-twin-fossil-shock/
【当社論考】「供給側の再エネシフト」を補完する「需要側のタイムシフト」の必然性
1970年代の第一次・第二次石油ショックを受け、当時の電力セクターは「石油火力からの脱却」を旗印に、原子力や石炭、LNGへの電源多様化を急速に進めました。加えて、需要側でも、徹底した節電への行動変容の取り組みと、技術革新による省エネ機器の開発や導入が進みました。
2020年代の「二重の化石燃料ショック」に直面している現在、Emberが提唱する再生可能エネルギーへのシフトを真に実効的なものにするためには、供給側の議論に加えて、再エネの多い時間に需要をタイムシフトする(再エネアワリーマッチング率を高める)需要側の行動変容についても検討すべきではないでしょうか。
かつての石油危機で国民が一丸となって取り組んだ消費電力量の削減。
再生可能エネルギー、特に太陽光や風力は自然条件によって発電量が変動します。これからの電化時代において重要なのは、単なる総量としての「kWhの削減(節電)」にとどまらず、再エネの供給が多い時間帯に合わせて電力消費を動かす「需要側のタイムシフト」です。つまり、供給に合わせて需要を最適化することで「アワリーマッチング率(時間単位の再エネ充足率)」を向上させる行動変容こそが、真のエネルギー安全保障の鍵を握ると考えられます。
こうしたタイムシフトを社会全体で実現するためには、昼タイムシフトを国民運動化するとともに、再エネ余剰時に電気代が安くなるような柔軟な金銭的インセンティブの設計や、AIを用いて家庭や工場の機器を自動的に制御するスマートな仕組みの導入が不可欠です。
私たちが目指すべきは、人間が意識せずとも、テクノロジーがリアルタイムの再エネ需給に合わせてエネルギー消費を最適化してくれる「自律分散型」の社会モデルです。化石燃料ショックという歴史の転換点において、私たちは供給構造の改革と同時に、電力消費の「時間」に対する概念そのものをアップデートしていく必要があります。
日本は、こうした社会的で緻密な取り組みに長じています。こうしたムーブメントをまずは日本で起こし、その知見をモデル化して燃料不足に苦しむアジアなどの新興国に展開していくことが求められています。