GHGプロトコルのScope2ガイダンス改定においては、排出量の算定ルールそのものの見直しと並行して、企業の脱炭素に対する「貢献」をどのように評価するかという新たな論点が浮上しています。その中心に位置付けられているのが「Actions and Market Instruments(AMI)」です。
AMIは、従来のScope2のように排出量そのものを算定する枠組みとは異なり、企業の行動や市場メカニズムを通じた影響を評価するための新たな報告体系として検討されています。特に電力分野においては、再エネ調達や投資が実際に電力システム全体の排出削減にどの程度寄与したのかを評価する必要性が高まっており、その具体的手法として「電力セクター排出影響(Electricity-sector emissions impacts)」の議論が進められています。

本記事では、AMIの基本構造とその導入背景を整理した上で、電力分野における中核的要素である電力セクター排出影響の位置付けと意味について解説します。
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目次
- AMIとは何か
- なぜAMIが導入されるのか
- AMIの基本構造(複数ステートメント)
- 電力セクター排出影響とは何か
- 対象となる行動と市場手段
- 企業・需要家への影響
- 今後の論点と制度の方向性
- Scope2との関係性
1. AMIとは何か
AMI(Actions and Market Instruments)とは、企業の脱炭素に向けた行動や市場メカニズムの活用によって生じる温室効果ガス排出への影響を評価・報告するための新たな枠組みです。
従来のGHGプロトコルでは、企業の排出量はScope1〜3という形で整理され、主に「どれだけ排出したか」という観点で評価されてきました。しかし、この方法では、企業が行った投資や契約、あるいは技術導入などが、社会全体の排出削減にどの程度寄与したのかを十分に表現することができません。
AMIはこの課題に対応するために導入されるものであり、単なる排出量ではなく、
・どのような行動をとったのか
・その結果としてどのような影響が生じたのか
を評価対象とする点に特徴があります。
2. なぜAMIが導入されるのか
AMIが議論される背景には、排出量ベースの評価だけでは企業の脱炭素活動を適切に評価できないという構造的な問題があります。
例えば、再エネ証書を購入することでScope2排出量を削減することは可能ですが、その行為が実際の電力システムにおける排出削減につながっているとは限りません。一方で、再エネ電源への投資や需要の時間シフトなどは、電力システム全体の排出削減に寄与する可能性があるにもかかわらず、従来の排出量算定では十分に評価されない場合があります。
このように、
👉 「排出量の見かけ」と「実際の削減効果」が一致しない
という問題が存在します。
AMIはこの乖離を埋めるために、
👉 排出量とは別に「影響(インパクト)」を評価する
という考え方に基づいて導入が検討されています。
3. AMIの基本構造(複数ステートメント)
AMIの特徴は、単一の指標ではなく、複数の視点から企業の活動を評価する点にあります。
まず、従来通りの「フィジカルGHGインベントリ」が存在し、これは実際に排出された温室効果ガスの量を示します。これに加えて、「契約ベースGHGインベントリ」があり、これは証書や電力契約を反映した排出量を示すものです。
さらに、AMIの中核となるのが「行動のGHGインパクト」であり、企業の行動によってどの程度の排出削減が社会全体で実現されたかを評価します。そして、これらを補完する形で、投資額や再エネ比率といった非GHG指標が位置付けられます。
このように、AMIは、
👉 排出量(何を排出したか)
👉 契約(どのように調達したか)
👉 行動(何を変えたか)
👉 進捗(どこまで進んだか)
といった複数の軸を組み合わせて評価する構造となっています。
4. 電力セクター排出影響とは何か
AMIの中でも、特に電力分野における中核的な概念が「電力セクター排出影響(Electricity-sector emissions impacts)」です。
これは、企業の電力調達や投資といった行動が、電力システム全体の排出量にどのような変化をもたらしたかを評価する手法です。
従来のScope2では、平均的な排出係数を用いて排出量を算定していましたが、この方法では「どの発電所の稼働が変化したのか」といった実際の系統への影響を捉えることができません。
これに対して電力セクター排出影響では、
・ある行動がなかった場合(ベースライン)
・その行動を行った場合(プロジェクト)
を比較し、その差分として排出削減効果を評価します。
特に重要なのが「限界排出係数(Marginal Emission Rate)」という考え方であり、これは電力需要や供給の変化に応じて実際に増減する発電設備の排出量を示すものです。電力システムでは、需要の変化は全ての発電所に均等に影響するわけではなく、特定の「限界電源」が応答するため、その排出係数を用いることでより実態に近い影響評価が可能となります。
また、この手法では時間や場所の違いが重要となります。同じ再エネ導入であっても、再エネが既に多い時間帯では効果が限定的となる一方、火力依存が高い時間帯では大きな削減効果を持つ可能性があります。
このように、
👉 電力セクター排出影響は「系統全体への因果的な影響」を測る手法
であり、AMIの中核的な構成要素として位置付けられています。
5. 対象となる行動と市場手段
AMIでは、企業の様々な行動や市場手段が評価対象となります。
行動としては、省エネルギーの推進や再エネ導入、設備投資、需要の時間シフトなどが含まれます。また市場手段としては、再エネ証書やPPA、さらにはSAF証書や低炭素素材証書など、環境価値を移転する仕組みが対象となります。
これらは従来、主に排出量削減の手段として位置付けられてきましたが、AMIではそれに加えて、
👉 「どの程度の排出削減を引き起こしたか」
という観点から評価されることになります。
6. 企業・需要家への影響
AMIの導入により、企業の脱炭素戦略は大きく変化する可能性があります。
まず、排出量を削減するだけでなく、その削減が実際に社会全体の排出削減につながっているかが問われるようになります。これにより、単に証書を購入するだけの戦略から、実際の電力システムに影響を与える行動へとシフトすることが求められるようになります。
また、投資や調達の評価軸も変化します。再エネ導入の場所や時間帯、さらには系統への影響といった要素が重要となり、より高度な戦略設計が必要となります。
7. 今後の論点と制度の方向性
AMIおよび電力セクター排出影響に関する議論は現在も進行中であり、いくつかの重要な論点が残されています。
例えば、追加性の定義や評価方法、限界排出係数の算定方法、データの可用性、さらには結果の比較可能性などが挙げられます。また、こうした評価をどの程度厳格に適用するかについても、実務負荷とのバランスを踏まえた議論が必要です。
今後は、これらの論点を踏まえつつ、電力分野だけでなく他セクターへの展開も視野に入れた標準化が進められる見通しです。
8. Scope2との関係性
AMIとScope2は、しばしば対立的に語られることがありますが、基本的には異なる役割を持つ補完的な関係にあります。
Scope2は、企業の電力消費に伴う排出量をどのように帰属させるかを定義するものであり、比較可能性や一貫性を重視した「排出量の帳簿」としての役割を担います。
一方でAMIは、企業の行動が社会全体の排出削減にどのような影響を与えたかを評価するものであり、「貢献の評価」という別の軸を提供します。
そのため、
👉 Scope2は「排出の責任」を示し
👉 AMIは「削減への貢献」を示す
と整理することができます。
両者は代替関係ではなく、むしろ同時に導入されることで、企業の脱炭素活動をより立体的に評価することが可能となります。
まとめ
AMIは、従来の排出量中心の評価を補完し、企業の行動や投資による影響を可視化する新たな枠組みです。
特に電力分野においては、「電力セクター排出影響」という手法を通じて、企業の行動が電力システム全体に与える影響を評価する方向が示されています。
今後は、
👉 Scope2(排出量)
👉 AMI(影響・貢献)
という二つの軸を組み合わせた評価体系が主流となり、企業にはより高度で実態に即した脱炭素戦略が求められることになります。