企業の電力由来のCO2排出量を示す「Scope2」は、現在大きな見直しが進んでいます。本記事では、Scope2の基本から改定のポイント、アワリーマッチングやPPA問題までを整理して解説します。(本記事では、全体像を最短で理解できるよう整理します。個別論点(アワリーマッチング、PPA等)は各記事で詳述します。)
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目次
・Scope2とは(基本)
・Scope2改定のポイント
・アワリーマッチングとは
・PPA問題とは
・SSS問題とは
Scope2とは(基本)
Scope2の定義
Scope2とは、企業が外部から購入した電力・熱・蒸気などのエネルギー使用に伴って発生する間接的なCO2排出量を指します。GHGプロトコルでは、排出量をScope1(直接排出)、Scope2(エネルギー起因の間接排出)、Scope3(その他の間接排出)に分類しており、Scope2はその中でも電力調達と密接に関わる重要な指標です。
企業の脱炭素戦略においては、電力の調達方法を変えることで排出量を削減できるため、Scope2の管理が中核的なテーマとなっています。
ロケーションベースとマーケットベース
Scope2の算定方法には、主に2つの手法があります。
ロケーションベース手法は、地域の電源構成に基づく平均排出係数を用いる方法であり、電力系統全体の実態を反映します。詳しくは以下のページをご覧ください。
これに対して、マーケットベース手法は、電力契約や環境証書に基づいて排出係数を決定する方法であり、企業の調達行動を反映する仕組みです。
従来はこの2つの枠組みで評価されてきましたが、現在はこの枠組み自体が見直されようとしています。
以下、マーケットベース手法についてご説明します。
マーケットベース手法改定のポイント
なぜScope2は見直されているのか
従来のScope2では、年間単位で再エネ電力を調達すれば排出削減とみなされる仕組みが主流でした。しかしこの方法では、夜間の電力消費を昼間の太陽光発電で相殺するなど、実際の電力需給と乖離した評価が生じるという問題が指摘されてきました。
こうした背景から、より実態に即した評価手法への移行が求められています。
時間一致(アワリーマッチング)の導入
改定の中心となるのが「時間一致(アワリーマッチング)」の考え方です。これは、電力消費と再エネ発電が同一時間帯で一致しているかを評価するもので、より現実的な排出量算定を可能にします。
この導入により、単なる再エネ調達量ではなく、「いつ使った電力か」が重要な評価軸となります。
供給可能性(Deliverability)の考え方
もう一つの重要な概念が「供給可能性(Deliverability)」です。これは、その電力が物理的に供給可能な範囲にあるかを問うもので、同一市場や系統制約の中で実際に届けられる電力かどうかが評価されます。
これにより、遠隔地の再エネや証書のみで排出削減を主張することが難しくなる可能性があります。
アワリーマッチングとは
従来の年間一致との違い
従来の仕組みでは、年間の再エネ調達量が消費量と一致していればよいとされてきました。しかしこの方法では、時間的なズレが無視されるため、実際の電力システムへの影響を適切に評価できません。
アワリーマッチングでは、このズレを解消し、時間単位での整合性を求めます。
なぜ時間一致が必要なのか
再エネは天候や時間帯に依存するため、発電量が変動します。この変動を考慮せずに評価すると、電力システム全体の脱炭素化にはつながらない可能性があります。
時間一致を導入することで、実際の需給バランスと整合した形での排出削減が評価されるようになります。
実務への影響(蓄電池・需要調整)
企業にとっては、アワリーマッチングの実現には蓄電池の活用や需要側の調整、複数電源の組み合わせが不可欠となります。単一の再エネ電源では対応が難しく、ポートフォリオ型の電力調達が重要になります。
PPA問題とは
PPAの基本(フィジカルとバーチャル)
PPAは、企業が再エネ電源から長期的に電力や環境価値を調達する契約です。物理的に電力を受け取るフィジカルPPAと、金融的に価格差を精算するバーチャルPPAがあります。
なぜPPAは問題になるのか
Scope2改定では、PPAの評価にも見直しが入る可能性があります。特にバーチャルPPAは、実際の電力供給と切り離されているため、時間一致や供給可能性の観点では評価が限定される可能性があります。
日本における制度的課題(FIT・FIP・証書)
日本では、FIT・FIP制度や非化石証書との関係が複雑であり、PPAの環境価値の帰属や評価が明確でない部分があります。これらの制度との整合性が、今後の大きな論点となります。
⇒PPAとScope2の関係を整理した記事はこちら
SSS問題とは
SSS(標準供給サービス)とは何か
SSSとは、特定の電源や環境価値に紐づかない一般的な電力供給を指します。多くの企業が契約している通常の電力供給は、このSSSに該当します。
⇒SSSについて詳しく見る
残余ミックス(レジデュアルミックス)との関係
Scope2改定では、SSSに含まれる電力はアワリーマッチングの対象から外されるとともに残余(レジデュアル)ミックスと合わせて「紐の付かない再エネ」して評価される可能性があります。これは、環境価値が紐づかれなかった再エネや火力発電などの残余電源の平均排出係数です。
⇒残余ミックスについて詳しく見る
なぜ再エネでもゼロ排出にならないのか
特に日本では、FIT・FIPによる再エネ電力が広く供給されていますが、公的な資金補助があり、特定の需要家に紐づかない場合にはSSSとして扱われる可能性があります。その結果、再エネであっても排出係数ゼロと認められないケースが生じます。
Scope2と電力システムの統合
電力システムとの関係(需給・系統)
Scope2改定は、電力市場や系統制約と密接に関係しています。単なる環境指標ではなく、電力システム全体の運用と一体化した議論が必要です。
データセンター・EVによる需要増加
データセンターやEVの普及により、電力需要は今後さらに増加します。この中で、時間一致をどう実現するかが重要な課題となります。
分散型エネルギーへの移行
再エネと蓄電池を組み合わせた分散型エネルギーシステムが、今後の主流となる可能性があります。Scope2の枠組みもこれに対応する形で進化しています。
今後の論点(制度・取引市場)
時間一致 vs 追加性(AMI)
Scope2改定では、時間一致を重視する考え方と、新規再エネ導入や再エネの質の高さ(追加性)を重視する考え方の対立があります。どちらを優先するかが制度設計の焦点となります。
⇒AMIについて詳しく見る
レガシー条項(経過措置)と適用除外
改定の適用時期や経過措置(レガシー条項)も重要なテーマです。改定による厳格な基準は、当面の間、超大手企業しか適用にならない可能性もあります。また、既にあるPPAなど既存契約の扱いや企業への影響を踏まえた移行設計が検討されています。
⇒レガシー条項について詳しく見る
電力システム改革との整合性
現在進められている、先物市場の拡充など電力システム改革との整合性を確保する必要があります。電力取引と、アワリーマッチングをシームレスに進めるための一体的な解決策が求められます。
火力発電とトランジション
再エネ拡大と同時に、火力発電の低炭素化やトランジションの議論も不可欠です。安定供給と脱炭素の両立が求められています。
まとめ
Scope2改定は、単なる排出量算定のルール変更ではなく、電力調達と電力システム全体の再設計を意味します。企業にとっては、「どの電力をどれだけ使うか」だけでなく、「いつ・どこで使うか」まで含めた戦略が重要になります。