1.Scope2改定と収益拡大の道筋を予想する
現在、GHGプロトコルScope2の見直しが国際的に議論されています。その方向性はまだ確定しておらず、最終的な制度設計については予断を許さない状況ですが、その中で有力な論点となっているのが「アワリーマッチング(時間単位での再エネ一致)」です。

そこで本記事では、この仕組みが導入された場合をあえて想定し、どのような市場構造や収益機会が生まれるのかを予想してみたいと思います。
- 1.Scope2改定と収益拡大の道筋を予想する
- 2.24/7カーボンフリー電力という国際的な潮流
- 3.エナジータグとGC-EAC(時間証書)の標準
- 4.日本の環境価値市場の構造
- 非化石証書
- グリーン電力証書
- J-クレジット
- 5.GC-EAC導入の分岐とエナジータグの位置付け
- (1)非化石証書を基盤とした拡張型
- (2)第三者による独立発行型
- 6.データ正確性とダブルカウント防止
- 7.収益性向上への戦略
この仮定のもとでは、特定の電源・事業モデルを持つ事業者は、これまで以上に収益機会を拡大できる可能性があります。
具体的には、以下のような事業者です。
・系統用蓄電池を保有・運用する事業者
・太陽光や風力と蓄電池を組み合わせて運用する事業者
・バイオマス、地熱、水力など、夜間でも安定的に再エネを供給できる事業者
その理由は明確です。時間単位で環境価値が評価される場合、再エネが不足する夜間や夕方の時間帯には、再エネ価値にプレミアムが付くようになります。すなわち、環境価値は「量」ではなく「タイミング」に応じて価格が変動する市場へと移行します。
この結果、夜間に再エネを供給できる事業者や、昼間の再エネを蓄電して夜に放電できる事業者は、プレミアム価格で環境価値を販売することが可能になります。
2.24/7カーボンフリー電力という国際的な潮流
こうした動きの背景には、「24/7カーボンフリー電力(24/7 CFE)」という国際的な枠組みがあります。24/7 CFEは、国連のエネルギー関連イニシアチブの一環として、Sustainable Energy for All(SEforALL)が主導し、2021年に立ち上げられた取り組みです。企業や政府が参加し、「毎時間、消費電力をカーボンフリー電源で賄う」ことを目標としています。
日本からも、我々株式会社電力シェアリングを含め複数の企業が参加しています。
3.エナジータグとGC-EAC(時間証書)の標準
アワリーマッチングを実現する仕組みとして注目されているのが、EnergyTag(エナジータグ)が提唱するGranular Certificate(GC)、いわゆるGC-EACです。
EnergyTagは、電力の「時間・場所・電源属性」を正確に紐づけるための国際標準規格の策定を目的とした国際非営利団体であり、電力事業者、企業、データ事業者などが参加しています。日本からは株式会社電力シェアリングを含め多くの企業が関与しています。
この規格では、単なる証書発行にとどまらず、
・発電データの計測
・証書の発行
・登録・管理
・需要とのマッチング
・検証および消却
といった一連のプロセスを定義しています。また、ダブルカウント防止のために、発行主体・マッチング主体・検証主体の役割分離も求められています。
4.日本の環境価値市場の構造
日本における環境価値は、主に以下の3制度で構成されています。
非化石証書
電気事業法および高度化法に基づく制度で、経済産業省が所管し、日本の主力となる環境価値市場です。JEPXの非化石価値取引市場で取引され、小売電気事業者や需要家が調達主体となります。FIT電源および非FIT電源に由来する証書があり、トラッキングにより電源種や所在地などの属性情報を付与することが可能ですが、現時点では時間単位の価値は反映されていません。
グリーン電力証書
民間主導の任意制度で、再生可能エネルギーによって発電された電力の「環境価値」を証書化し、企業や自治体に販売する仕組みです。主にCSRやRE100対応などの用途で利用されており、電力そのものとは切り離して取引されます。制度的には柔軟性が高い一方で、国の制度に基づく証書と比べると標準化や国際整合性の面でばらつきがある点が特徴です。
J-クレジット
環境省・経済産業省・農林水産省が共同で運営する制度で、省エネ設備導入や再エネ導入、森林吸収などによるCO₂削減・吸収量をクレジットとして認証・発行する仕組みです。電力由来の環境価値に限定されず、幅広い排出削減活動を対象とする点が特徴です。企業はこれを購入・償却することで、自社の排出量削減やカーボンオフセットに活用できます。
上記3つの証書の中でも、送配電網上を流通する再エネ電力を対象とした環境価値は、主に非化石証書として取引されています。したがって、日本における時間証書(GC-EAC)の議論も、この非化石証書との関係性を中心軸として展開されていく可能性が高いと考えられます。
5.GC-EAC導入の分岐とエナジータグの位置付け
今後の制度設計において最も重要な分岐は、GC-EACをどのように発行するかです。
大きくは以下の2つの方向に分かれます。
(1)非化石証書を基盤とした拡張型
まず考えられるのは、既存の非化石証書それ自体に時間情報を付与し、GC-EAC化する方法です。既存制度との整合性が高く、最もわかりやすい仕組みとなります。
(2)第三者による独立発行型
もう一つ考えられるのは、非化石証書とは別に、新たな発行主体がGC-EACを発行し、ボランタリー市場として運営する方法です。証書が並立すると複雑化するデメリットがある一方で、既存の法体系や規制フレームワークを変えずに導入できる可能性があり、比較的導入しやすいアプローチといえます。
実は、国際標準組織であるEnergyTagは、上記いずれのモデルにおいても適用可能な「取引の作法」をすでに明示しています。具体的には、
・再エネ発電者、または蓄電池の放電に伴う環境価値をどのようにGCとして発行するか
・その証書をどのように移転・取引するか
・最終的に需要家に紐づけた後、どのように無効化(消却)するか
といった一連のプロセスが、明確な規格として整理されています。
非化石証書とは別にGC-EACを発行する場合のイメージは以下のようなものです。

6.データ正確性とダブルカウント防止
GC-EACの導入においては、2つの点が極めて重要になります。それは、第一に「データの正確性」、第二に「ダブルカウント防止」です。
まず、ある時間・ある場所で発生した再エネ価値が正確に計測されていることが前提です。
この点について、日本では約8,000万台のスマートメーターが普及しており、時間単位のデータ把握という意味では他国と比べても非常に条件が整っています。仮に発行者が不正を行ったとしても、公的機関が保有し、API等でアクセス可能な30分単位の発電データという「元台帳」を確認することで、その正確性を検証することが可能です。これは、土地取引における登記簿のような役割を果たしており、日本における大きな優位性といえます。
したがって、日本はスマートメーターのインフラを最大限活用することで、アワリーマッチングを用いた新しいビジネス領域で先行できる可能性があります。
一方で、第二のダブルカウント防止はより難しい課題です。環境価値の発生そのものは把握できたとしても、
・二重に発行されていないか
・複数回取引されていないか
・需要家側で二重に使用されていないか(消却が適切に行われているか)
といった点について制度的な担保が必要になります。
非化石証書自体をGC-EAC化する場合には比較的対応しやすいものの、別主体が発行する場合には一気に難易度が上がります。この点についてもEnergyTagは一定の整理を提示していますが、実運用に耐える制度設計が求められます。
7.収益性向上への戦略
以上のように、もしアワリーマッチングが導入された場合、単に再エネを発電するだけではなく、「いつ供給するか」が収益を決定づける要素になります。
特に、
・蓄電池を活用した時間シフト
・太陽光・風力+蓄電池の統合運用
・バイオマス、地熱、水力といった夜間供給可能電源
といった事業モデルは、時間価値の観点から大きな優位性を持ちます。
アワリーマッチングの本質は、再エネの価値を「量」から「時間」へと転換する仕組みです。この変化により、蓄電池や夜間供給可能な再エネの価値が大きく高まり、電力ビジネスの収益構造そのものが変わる可能性があります。
日本においては、非化石証書を軸とした制度との接続を前提に、どのように時間価値を組み込むかが今後の重要な検討テーマとなります。当サイトでは、引き続き最新動向を発信していきますので、ぜひフォローください。