資源エネルギー庁は、2026年3月に公表した「制度設計専門会合(WG)とりまとめ」において、日本のエネルギー安定供給の要となるLNG(液化天然ガス)の調達戦略について、強い危機感を伴う指針を発表しました。
現在、大手電力各社へのヒアリングによれば、2030年度頃までは概ね現在と同水準の長期契約量が確保されています。しかし、2030年以降は多くの契約が順次期限満了を迎える「契約の空白期」が到来します。これを受け、国は各社の調達状況を年1回程度の頻度で定期調査し、需給リスクを継続的に監視する体制を構築するとしています。
供給力確保に向けた追加対策
将来の電力不足を未然に防ぐための「供給力確保に向けた追加対策」を発表しました。
政府は、実需給の10年程度前から、国や電力広域的運営推進機関(広域機関)が発電事業者の電源休廃止計画を把握できる仕組みの検討を開始します。これは、昨今のイラン情勢悪化に伴うLNG供給不安や、老朽火力の急速な減少を受け、中長期的な需給見通しに基づいた計画的な対応を可能にするための措置です。
電源休廃止の早期把握とLNG調達の地政学リスク対応
現在、日本のエネルギー安全保障は、ホルムズ海峡における緊張の高まりにより、LNG供給の断絶リスクに直面しています。こうした中、バックアップ電源となる火力発電の維持は不可欠ですが、大手電力のLNG長期契約は2030年以降に順次満了を迎えます。国は年1回程度の定期調査で契約実態を把握し、資源開発・燃料供給小委員会での議論を通じて、戦略的な燃料確保策を講じるとしています。
さらに、実効性を高めるため、現行の供給計画や火力脱炭素化計画をベースに、電源の休廃止検討状況を早期にキャッチアップする枠組みを構築します。これにより、エリア別の需給シナリオを深化させ、特定電源の廃止が系統全体に与える影響を事前に評価し、必要な代替策を計画的に進める体制を目指すとしています。
容量市場の抜本的見直しと不落札電源の維持
供給力確保の要となる「容量市場」についても、包括的な検証に基づいた見直しが行われます。メインオークションにおける指標価格の適正化に加え、一定規模以上の発電事業者に対して電源の供出を求めるなど、稼働可能な既存電源を最大限活用するための制度改正を検討します。
特に、オークションで不落札となった電源についても、系統維持のために必要性が確認された場合には、その維持費用を負担する仕組みを検討します。これは、追加オークションや「予備電源制度」との整合性を取りながら、経済的理由だけで重要な電源が失われることを防ぐセーフティネットとして機能させる狙いがあります。
補修時期の最適調整と中長期的な需給認識の統一
電力不足が懸念される時期の供給力を最大化するため、国や広域機関が電源の運転・補修計画を事前に把握し、点検時期の調整を依頼できる実効的な枠組みを導入します。事業者が補修点検を発注する前の段階で調整を行うことで、需要ピーク時の供給力不足を回避し、効率的な設備運用を可能にするとしています。
また、エリア別の需給シナリオ策定を通じて、中長期的な電力需給に関する産官学の共通認識を形成します。需給動向の変化を定期的に観測・反映させることで、不透明な国際情勢やエネルギー市場の変動に対しても、レジリエンスの高い電力システム改革を推進していく方針としています。
ホルムズ海峡の緊迫とLNG供給網の脆弱性
今回の提言の背景には、昨今のイラン情勢の悪化に伴うエネルギー安全保障上の深刻な懸念があります。特に、世界のLNG貿易の要衝であるホルムズ海峡において、イランによる封鎖示唆や船舶への攻撃などの緊張が高まっており、供給ルートの途絶リスクが現実味を帯びています。
日本はLNG輸入の多くを中東地域に依存しており、ホルムズ海峡を通過できない事態が発生すれば、国内の発電燃料が即座に不足し、電力供給に甚大な影響を及ぼす恐れがあります。トランプ政権下の米国による対イラン制裁や経済封鎖も相まって、市場価格の高騰と調達難が同時進行する「LNGショック」への備えが、制度設計上の最優先課題となっています。
「戦略的バッファ」の構築と官民一体の調達支援
2030年以降の新規調達や既存契約の更新に向けて、国は単なる民間企業の努力に委ねるのではなく、資源開発・燃料供給小委員会での議論を通じて、安定供給に必要な量を確保するための具体的な対応策を検討します。これには、緊急時に備えた戦略的余剰(バッファ)の積み増しや、上流権益への投資支援などが含まれます。
また、特定の地域に依存しない供給源の多角化も急務です。北米や豪州からの調達拡大に加え、地政学リスクの低いルートの確保を進めることで、イラン情勢のような突発的な事態に対してもレジリエンス(回復力)の高い燃料供給網を再構築することを目指しています。
電源の脱炭素化と安定供給の「二兎」を追う課題
政府は「安定供給の確保」を大前提とした電源の脱炭素化を推進しています。再エネの導入拡大を進める一方で、気象条件に左右される再エネのバックアップとして、調整力に優れた火力発電の重要性は依然として変わりません。
LNGは石炭に比べてCO2排出量が少なく、脱炭素化への移行期(トランジション)における最重要燃料と位置付けられています。しかし、現在のイラン情勢が示す通り、その供給は極めてデリケートな国際情勢の上に成り立っています。国としては、燃料確保の「量」と「価格」の両面から監視を強め、脱炭素化の歩みを止めないための強固な燃料基盤を確立するとしています。
出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/pdf/005_03_04.pdf