資源エネルギー庁は、2026年3月に公表した「制度設計専門会合(WG)とりまとめ」において、再生可能エネルギーの導入拡大や大規模需要の急増に対応するため、国内の基幹的な送電網(地内系統)を計画的に先行整備する新たな仕組みを発表しました。
これまで、送電網の整備は発電所の連系ニーズが発生してから動く「追随型」が主流でしたが、今後は2050年のカーボンニュートラル実現を視野に入れ、一般送配電事業者が策定した整備計画を国や電力広域的運営推進機関(広域機関)が確認し、先行して投資を促す体制へと転換します。
広域機関による貸付対象を拡大し資金調達を支援
大規模かつ基幹的な地内系統の整備を加速させるため、国は広域機関による貸付制度の対象を拡大する方針です。具体的には、一定以上の容量や電圧を持つ設備を対象とした計画について、広域機関からの資金援助を可能にすることで、一般送配電事業者の投資負担を軽減し、迅速な着工を後押しします。
この背景には、再エネ適地である地方から消費地へ電力を送るためのインフラ不足が、脱炭素化のボトルネックになっている現状があります。莫大な投資が必要となる基幹系統に対し、公的な支援枠組みを明確化することで、予見性を持ったインフラ開発を促進するとしています。
再エネと大規模需要で異なる整備スケジュールを策定
今回のとりまとめでは、整備の目的ごとに異なる時間軸を設定しています。再生可能エネルギーの導入を主目的とする系統整備については、2050年のカーボンニュートラル達成を見据えた長期的な視点で計画を策定し、段階的な増強を進める方針です。
一方で、データセンターや半導体工場などの大規模需要を起因とする系統整備については、今後10年程度を重点期間として設定しています。これは、グローバルな産業競争が激化する中で、需要家からの迅速な連系要望に応える必要があるためです。各エリアの需要動向を精緻に予測し、産業基盤としての電力網を機動的に整備していくとしています。
立地誘導と系統整備の連動による効率化
系統の整備にあたっては、単に網を広げるだけでなく、電源や需要の「立地誘導」との連動も重視されます。系統の空き容量がある場所への立地を促すことで、社会全体としてのインフラコストを抑制し、効率的な電力システムを構築する狙いがあります。
国は、今回策定される先行整備の枠組みを通じて、将来的な電力需給の偏りを解消し、レジリエンス(強靭性)の高い次世代ネットワークの確立を目指す意向です。今後、具体的な対象設備の要件や貸付条件の詳細を詰め、制度の早期運用開始を図るとしています。
出典:https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/jisedai_kiban/pdf/005_03_04.pdf
解説:EUのケース
EU(欧州連合)では、再生可能エネルギーの導入加速とエネルギー安全保障の強化を目的に、系統網とストレージ(蓄電池等)を切り離さず、**「一体的なインフラ」**として計画・投資する仕組みが高度に構築されています。
2026年現在、EUが推進している最新の計画内容と、投資インセンティブを確保する具体的なメカニズムについて解説します。
1. 一体的な計画策定メカニズム:TYNDPとTEN-E規則
EUにおける系統とストレージの計画は、「欧州全域にわたる10ヶ年ネットワーク開発計画(TYNDP)」を中心に統合されています。
- 主導組織: 欧州送電系統運用者ネットワーク(ENTSO-E)が主導し、2年ごとに更新します。
- 一体化の仕組み: 従来は送電網が中心でしたが、最新のルール(TEN-E規則の改定)により、大型ストレージ、洋上風力、水素ネットワークが「共通の利益プロジェクト(PCI)」として統合的に評価されるようになりました。
- 「Energy System Efficiency First」の原則: 系統を新設する前に、ストレージやデマンドレスポンスで解決できないかを優先的に検討することが義務付けられています。
2. 投資インセンティブを確保する4つの仕組み
EUは、市場の変動性(ボラティリティ)を抑えつつ、投資家が安心して長期資金を投じられるよう、以下の重層的な仕組みを導入しています。
① 2年ごとの「柔軟性ニーズ」評価の義務化
加盟国は、5年後・10年後のシステムに必要な「非化石柔軟性(ストレージ等)」の量を2年ごとに推計し、目標を設定することが義務付けられました。これにより、ストレージ事業者に対して将来的な市場規模の予見性を与えています。
② 容量市場と「非化石柔軟性」への優先支援
多くのEU諸国では、供給力を確保するための「容量市場」を運用していますが、最新の電力市場デザイン(EMD)改革により、二酸化炭素を排出しないストレージやデマンドレスポンス専用の**補助スキーム(Support Schemes)**を国が設計できるようになりました。
③ 双方向の差額決済契約(CfD)とPPA
再エネだけでなく、一部の柔軟性リソースに対しても、価格下落時の収入を保証し、高騰時の超過収益を回収する**「双方向CfD(Contracts for Difference)」**や、企業間電力購入契約(PPA)の活用を推奨しています。これにより、安定したキャッシュフローが確保されます。
④ CEF(欧州連結ファシリティ)による直接融資
国境を越えるプロジェクトや欧州全体に便益があるストレージ・系統プロジェクト(PCI)には、EUの予算から直接的な資金援助や低利融資、迅速な許認可(ファストトラック)が提供されます。
3. 最新の計画内容:2026年「グリッド・パッケージ」
2026年4月に議論されている最新の**「欧州グリッド・パッケージ(European Grids Package)」**では、以下の具体的な目標が掲げられています。
- 投資規模の拡大: 2031年から2050年までに、送電網だけで**年間平均約850億ユーロ(約14兆円)**の投資が必要と試算されています。
- 許認可のデジタル化・迅速化: ストレージや系統プロジェクトの許認可プロセスを簡素化するため、全ての加盟国に「デジタル・ポータル」の設置を求め、手続きの透明性を高めています。
- 「First-Ready, First-Served」への移行: 系統連系の順番待ち(キュー)を解消するため、単なる申し込み順ではなく、プロジェクトの成熟度(準備状況)が高いものから優先的に連系させるルールへの転換が進んでいます。
まとめ:日本への示唆
EUの事例は、単に「蓄電池を増やす」だけでなく、「将来どれだけの柔軟性が必要か」を国が法的責任を持って宣言し、市場メカニズム(容量市場やCfD)と直接補助(CEF)を組み合わせて投資を引き出すという、極めて計画的なアプローチを取っています。
特に、系統整備の遅れをストレージで補完し、その投資を「系統の一部」として認める柔軟な規制枠組みは、日本の地内系統整備における「先行投資」を考える上でも重要な先行事例となっています。