川崎重工業は、2026年4月22日、カナダ・アルバータ州の3団体と液化水素サプライチェーンの構築に向けた実現可能性を調査するための覚書(MOU)を締結しました。同社は、エドモントン地域を拠点とする各団体と協力し、カナダ産の低炭素水素を日本へ輸出するためのバリューチェーン全体を網羅するコンソーシアム形成を視野に入れています。

液化水素とアンモニアの優位性比較
次世代エネルギーの輸送手段として、液化水素とアンモニアは激しい主導権争いを続けています。液化水素の最大の優位性は「純度」にあります。マイナス253℃で液化して運ぶため、到着後に再変換の手間がなく、燃料電池や半導体製造へ即座に投入可能です。一方のアンモニアは、既存の肥料用インフラを転用できるコスト面での優位性がありますが、使用時に水素へ戻す際、膨大なエネルギー消費と不純物除去のコストが発生する課題を抱えています。
「効率の液化水素」か「転用性のアンモニア」かという議論に対し、川崎重工業は究極のクリーンエネルギー社会には水素の直接利用が不可欠であると判断し、液化水素技術に全力を注ぐ戦略をとっています。アンモニアが発電所での「混焼」など既存設備の中継ぎ役として期待されるのに対し、液化水素は将来的な水素社会の「基幹インフラ」としての座を狙う構図となっています。
拡大するアンモニア陣営と実証プロジェクトの進捗
一方で、アンモニアを主軸に据える陣営も、2026年に入り実用化に向けた動きを加速させています。JERAは、碧南火力発電所において世界最大規模となるアンモニアの20%混焼実証試験を継続しており、2026年3月には助成金交付の決定を受けて商用化に向けた価格差補填の検討も進んでいます。また、IHIとGEベルノバは同月、大型燃焼試験においてアンモニア100%による専焼に成功したと発表しました。
海運業界においても、日本郵船や川崎汽船、住友商事などがシンガポールでのアンモニア燃料供給船の導入に向けたMOUを締結するなど、船舶燃料としての社会実装が目前に迫っています。2026年11月には、世界初となる国産エンジン搭載のアンモニア燃料輸送船の竣工も予定されており、既存の化学品物流網を基盤としたサプライチェーン構築ではアンモニア陣営が一歩リードしている状況です。
2030年の商用化を見据えた国際インフラへの布石
こうしたアンモニア陣営の台頭に対し、川崎重工業は輸送船の大型化で対抗しています。同社は2026年1月に世界最大の4万立方メートル型液化水素運搬船の造船契約を締結しており、2030年度の商用化を目指しています。液化水素は輸送難易度こそ極めて高いものの、一度インフラが確立されれば、変換ロスを最小限に抑えられる究極の物流形態となります。
今回のカナダでの提携は、将来的な供給源の多角化を図るものであり、北米ルートの検討によって日本のエネルギー安全保障の向上に寄与するとしています。従来の化石燃料に代わる新たなエネルギー物流規格の誕生に向け、製造から消費までの技術的・経済的な課題抽出を加速させる構えです。