IT市場調査大手のIDCは2026年2月26日、世界市場におけるスマートフォンの年間出荷見通しを発表しました。同レポートによると、2026年の世界スマートフォン出荷台数は前年比で13%(約1億6000万台)減少し、約11億台まで落ち込む見通しです。
2024年の6%増、2025年の2%増という成長トレンドから一転、大幅なマイナス成長を記録することになります。この急激な冷え込みの背景には、半導体業界を揺るがしている前例のないメモリチップの供給不足と、それに伴う部品コストの記録的な高騰があるとしています。
AI需要の煽りでメモリ争奪戦、100ドル以下の端末は「絶滅」へ
複数の経済メディアが報じているところによれば、生成AI(人工知能)の爆発的な普及に伴い、データセンター向けの高性能メモリに供給が集中しています。これにより、スマートフォン向けのDRAMやNANDフラッシュの価格が2025年比で数倍に跳ね上がっており、端末メーカーの収益を激しく圧迫しています。
コスト上昇分を吸収できなくなった各メーカーは、採算の合わないエントリーモデル(低価格帯)の生産を次々と打ち切っています。昨年時点で年間約1億7000万台が出荷されていた「100ドル(約1万5000円)以下」の価格帯は、現在のコスト構造では維持が不可能となりました。その結果、市場全体がより高単価なデバイスへとシフトしており、安価な端末を求める層の選択肢が急速に失われています。
新興国を直撃する「接続の断絶」と決済経済からの隔離
この「格安スマホの終焉」は、単なるガジェット市場の縮小に留まらず、深刻な社会問題を引き起こすリスクを孕んでいます。特に打撃を受けるのは、南アジアやアフリカ、東南アジアなど新興国の中流以下に属する人々です。これらの地域では、スマートフォンは娯楽の道具ではなく、インターネットへアクセスするための唯一かつ不可欠なライフラインとなっています。
格安端末が市場から消え、デバイスの平均販売価格が上昇し続けることで、低所得層は物理的にデジタル空間から締め出されることになります。現在、多くの新興国ではQRコードやSMSを用いたモバイル決済が経済の基盤となっています。スマホが手に入らなければ、送金や支払いができず、公的な行政サービスからも隔絶される「デジタル・アパルトヘイト」とも呼ぶべき事態が懸念されます。
供給不足は2027年まで継続、戻らない「低価格」の時代
IDCの分析によれば、この深刻なチップ不足は少なくとも2027年中盤まで継続する見込みです。また、仮に供給が回復したとしても、メモリ価格が2025年以前の水準まで下落する可能性は低いと予測されています。AI機能の高度化に伴い、スマートフォン側に求められる最低スペックが引き上げられていることも、価格の下押しを困難にする要因となっています。
「誰でも安価にインターネットへ繋がれる」というスマートフォンの普及期が終わり、デバイスを所有できる層とできない層の格差が、そのまま経済的な格差を固定化する懸念が高まっています。国際社会は、AI技術の発展がもたらすこの新たな副作用に対し、通信環境の公平性をいかに担保するかという重い課題を突きつけられています。