米国の自動車および電池メーカー各社が、電気自動車(EV)向け電池工場の生産ラインを定置用エネルギー貯蔵システム(ESS)向けに転用する動きを強めています。
EV市場の減速に伴う過剰な生産能力を、AI(人工知能)の普及で急増する電力需要に対応する蓄電池製造へ振り向ける狙いがあります。
EV市場の停滞と蓄電需要へのシフト
米国のEV市場は、税額控除の打ち切りなどの影響を受け、直近6カ月で販売台数が25%以上減少しています。一方で、膨大な電力を消費するデータセンターやクラウドコンピューティングの拡大に伴い、再生可能エネルギーを貯蔵するESSの需要は急増しています。これを受け、ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーター、韓国のLGエナジーソリューションなどは、未稼働の生産設備や既存工場の転用を進めています。
具体的には、GMとLGエナジーソリューションの合弁会社であるアルティウム・セルズが、テネシー州のEV電池工場をESS用のセル工場に切り替える方針を明らかにしました。また、フォードも今後2年間で20億ドルを投じて蓄電部門を設立し、新たな収益源の確保を目指すとしています。
設備転換を阻む高い技術的障壁
しかし、工場をESS向けに改造するには複雑な課題が伴います。北米のEV用電池ではニッケル系が主流ですが、ESSでは安価で長寿命なリン酸鉄リチウムイオン(LFP)電池が採用されることが一般的です。生産ラインをLFP仕様に変更するには、最大18カ月の期間と数億ドルの追加投資が必要になると指摘されています。
また、LFP電池の技術とサプライチェーンは中国企業が先行しており、米メーカーにとっては技術的な追随と同時に、中国製資材への依存度を下げなければならないというジレンマがあります。米国の税額控除をフルに享受するためには、今後数年で中国製資材を段階的に排除する必要があり、これが調達コストを押し上げる要因となっています。
需給ギャップとテスラの先行
現在の北米における定置用電池の需要は年間約76GWhと見込まれていますが、EV電池向けに行われた過剰投資による余剰生産能力は約275GWhに達しており、ESS需要だけではこの差を埋めきれない状況です。今後5年間で蓄電需要が125GWhまで倍増すると予測されていますが、依然として供給過剰の状態が続く見通しです。
この分野では、約10年前からESS事業を育成してきたテスラが先行しています。同社のESS部門の粗利益率は約30%に達しており、AI企業への大型蓄電池「メガパック」の販売も加速しています。後を追う既存車メーカー各社にとって、生産ラインの柔軟な運用とサプライチェーンの再構築が急務となっています。